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2023.10.30

クリエイティブに触れて|『国宝 東京国立博物館のすべて』③

クリエイティブに触れて 

彫像に圧倒されるラストで満腹感。

およそ3メートルの「阿形(右)」と「吽形(左)」

思っていた以上の存在感と満足感。

国宝展の最後には、撮影が許されたエリアがあります。今回そこには、金剛力士像と、菱川師宣の見返り美人が展示されていました。

私でも知っている、いずれも超有名な作品。特に金剛力士像は、修復の過程をドキュメンタリー番組で放送されていたこともあって、感慨深い気持ちで対面しました。

高さは約3メートル。ちょっと高い台に乗せられているのもあって、下から見上げる筋骨隆々の像はかなりの迫力。力強さと躍動感は緻密でリアルな造形だからこそ。実際の高さは3メートルほどですが、体感としてはもっと大きく感じられました。

その存在感に圧倒されながら、展示の一番最後に「ああ、国宝見たなあ。」という満足感で満たされたのは、きっと私だけではないのではないでしょうか。


歴史を想うと、いろんな角度から見ることができる。

私は結構、歴史が好きです。高校の社会科では、世界史・日本史はつまらなそうだった(ただ暗記するのが嫌だった)ので地理を選択しましたが、大人になってからは、歴史小説や大河ドラマ、世界史をわかりやすく説いた本などに比較的興味が高く、当時の人たちの生き様に思いを馳せるのがとても楽しい時間だと思っています。

この像は12世紀後半ごろに造られたとのこと。時代で言えば、「いいはこ(くに)つくろう鎌倉幕府」の頃。平家の隆盛に翳りが見え、世が戦乱に覆われることで、文から武へ社会の価値観が急激に変化していく頃。強くなければ何も守れない、そんな時代だからこその「強さ」を感じさせる表現が一層美しく表現されたのだろうな、と想うのでした。

もう一つ、歴史の観点から思うことを。

日本のみならず、海外の仏像を見ていつも違和感を感じることが。それは、布の表現。例えばこの力士像。力強く美しくも、その肉体は極めて写実的、とまではいかないかと思います。対して、布の表現は、ほぼ100点満点の写実性。このチグハグさがいつも気になってしまうのです。

この布の表現はもともと、ギリシア彫刻に由来するもので、世界史だと「ヘレニズム文化」ってやつです。古代でもギリシアの彫刻って、布がひらひらした感じがありますよね。あれがインドあたりから中国を通って日本まで。なので、日本に限らず、仏像は基本的にひらひらしそうな布を身につけているんだそうですよ。

なので最近は仏像を見るたびに、古代ギリシア(今から4000年ぐらい前)の彫刻師の観察眼と表現力がいかに素晴らしかったかを思わずにはいられないのです。

参考までに古代ギリシアの布イメージ(AIが生成した画像なので本物ではないですが。)

ヘレニズム文化の話は、有名な話(というか教科書に載っている話)ですが、こういう布のリアルさによる感動や発見こそが、「歴史」をただの暗記ものでなく、これまでに生きた人々の息遣いに想いを馳せるきっかけになるのだろうと思います。「歴史なんか学んでも〜」と思っていた高校生の自分に言って聞かせたい、と思うのでした。

ちなみに、国宝展①国宝展②の記事はこちらから。

Written by
AKIRA KIKUCHI

DIRECTOR & DESIGNER

グラフィックデザイナーとして15年以上デザインに携わる。大手メーカーや官公庁をはじめ、カタログ、ポスター、ロゴ制作などグラフィカルなデザインを幅広く手がける。 近年はサイトデザインも手がけ、webデザインも対応。また、ディレクターとして、企画・提案から運営管理までのディレクションも担う。