VERY GOOD CONTENTS
2023.04.25

クリエイティブに触れて|なぜ飲むか?

クリエイティブに触れて 

以前働いていた職場で知り合い、今も仲良くしてくれる6歳下のデザイナーの女の子と先日池袋でランチをしました。お酒を飲む人が相手だと、それぞれの家の中間地点で昼間からあいている目ぼしい居酒屋に行くのがほとんどですが、お酒を飲まない人が相手だとお店選びに迷ってしまう。その子はお酒を飲まないので「なんだか女子会っぽい!」とガレットが自慢のお店に行きました。ガレットを食べた後も話は尽きることなく、喫茶店「伯爵」の池袋東口店から池袋北口店へとはしご。13時に集合して解散は22時過ぎ。お酒を飲まずにここまでしゃべるのは、久しぶりのことでした。

そこで、ふと、なんで私はお酒を飲むのだろう?と思ったのです。小さい頃、私にとってお酒は憧れでした。父がウイスキーを飲む用の、馬が彫刻された銀のショットグラス。あのグラスでいつかウイスキーを飲んでみたいと思っていました。そして、お酒を飲める歳になった大学時代。今の仕事を選ぶきっかけになったゼミの先生に、よく授業終わりに先生行きつけの喫茶店に連れられて、先生は「麦」とだけ頼み、私たちはパスタを御馳走になったものでした。授業の話はそこそこに、私たちは「どうしたら彼氏ができるのか?」と先生に問い、先生は近所の中華料理屋の腸詰と紹興酒がいかに美味いかを熱弁する。当時「もうすぐ古希」と言っていた先生と私たちのかみ合っているのかよくわからないけれど、それぞれが喋りたいことを喋る時間が大好きでした。隙あらばお酒の話をしだす先生は、今も私の憧れです。

山口瞳さんの『酒呑みの自己弁護』は、お酒にまつわる粋な小話が集まった本です。『夕刊フジ』で連載していたエッセイを一冊にまとめ、1973年に初版が発行されました。山口瞳さんはサントリーに入社し、「洋酒天国」の編集者として活躍。1963年には直木賞、1979年には菊池寛賞を受賞…といったことをまったく知らずにタイトルに惹かれて、数年前、神保町の古本屋でこの本を手に取りました。酒場や、酒場で出会った人たち。綴られているのは古き良き昭和ですが、山口さんが「惚れた」という酒呑みは、どの人も豪快でかっこいい。自分より若い世代の方が「酒の飲み方はスマートである」と思ってしまうのは、どの時代も変わらない。元サントリー社員だったことから、エッセイには度々ウイスキーが出てきます。印象的だったのは「絶えず舌を蹴っている感じ」と表現されたマルティーニ。

「あぁ、飲みたい」と本を閉じ、いつもママさんとバーテンダーの息子さんが優しく迎えてくれる近所のダイニングバーへ。18世紀イギリスの禁酒時代の密造酒を再現したグレーンウイスキーを引っかけたのでした。私はなぜお酒を飲むのか。お酒の場が好きなのはもちろん、この本の最後のエッセイにあるとおり、「酒をやめたら…もうひとつの健康を損ってしまうのだと思わないわけにはいかない」からなのでしょう。「今日は飲むぞー!」という時も、お酒を飲まないとやっていられない時も、その悲喜こもごもが好きなのだ、と感じたのです。

Written by
SATOKO OKAMURA

DIRECTOR & COPYWRITER

大学時代はメディア表現学を専攻。フリーペーパーの広告営業、企業が発行する会報誌等の企画編集を経て、カラビナに入社。好きなものは1960~70年代のロックと映画、落語。映画好きが高じて映画館でアルバイトをしたことがある。肉全般と立ち食い蕎麦、どら焼きに目がない。