SPECIAL TALK
2023.04.28

【第一回】MBA組織論の露木恵美子教授に聞きました!『組織文化とブランディングの微妙な関係』

ブランディング 組織文化 

企業の価値を生み出す源泉となる「組織文化」。
もやっと見えにくい組織文化とは何かを話し合いながら、自社にふさわしい“芯のある”ブランディングを行うために大切なこととは何かを話し合いました。

組織文化ってつくるもの?育つもの?

戸部:今日は、先生が研究されている組織文化が、企業ブランディングと繋がっていくのか。企業にとって組織文化は、なぜ大切なのか?というお話を伺えればと思います。

露木:そうですね。そもそも組織文化は、意図的に作り出すことは難しいですよね。創業者の理念や考え方が基礎になって作られていく面はあるけど、それも時間を経て変化していくものですし。

戸部:特に歴史が長い企業の場合は、本当にいろいろな影響を受けて“文化”として形になっていくところがありますよね。ところで先生、組織文化に良いもの、悪いものってあるのですか?

露木:組織文化それ自体に「いい」とか「悪い」はありません。もともと、その企業にとっての必然性や成功体験があってその文化が生まれてきているので、その事業特性や置かれている環境に大きく影響を受けています。たとえば電力企業なら社会インフラを支える訳ですから、じっくりと考えて安全性や安定のあるサービスを目指すでしょうし、それが慎重さや熟考型の風土を生み出していきますよね。ただ、経営環境が変わる中で、その文化だけでは機能しづらくなっていくなどの面も出てくるかもしれません。

戸部:組織文化が出来上がっていく過程の中で、その企業にとっての成功体験があるから、その企業らしい考え方や優先順位のつけ方、価値基準が身についていく・・。

露木:それが平常時では機能するけれど想定していないことが起きたり、前提となるエネルギーそのものが転換期に差し掛かるなどの環境変化が起きると、これまでの文化で乗り切っていけるかどうかはわからないですよね。

戸部:今、いろいろな企業が「変わらなきゃ」と言っています。ネット化やグローバル化で情報のやりとりも変わったし、環境問題に対応するためにエネルギーも転換しなきゃ、A Iも取り入れてと少し前の会社経営と比較しても、非常に目まぐるしく変化が起きているから、みなさん「変わらなきゃ」の合唱になってしまいがちなんですね。 

文化は「身体性」。染みついているので簡単に変われない!?

露木:「変わりたい」という気持ちと裏腹ですが、文化というのは“身体性”で身についているもの、体に染み込んでいるものなのです。だから、トップの一声とか意識を変えるだけでは、実はなかなか変えることが難しいんです。これまで丁寧で慎重な仕事がよしとされていた社員が、仮にどんどんトライしろ!新しいアイデアを出せ、と言われても戸惑ってしまいますし、逆も然りです。

戸部:コンプラ、コンプラと言われても、なかなかなくならない企業の不正なども、組織文化の悪い形での影響があるのでしょうか。

露木:そうですよ。実際に、わざわざ不正をしようと思う社員いないじゃないですか。皆、基本的に「よかれ」と思って行動している。でも、たとえば、会社の命令は絶対だ、という文化があると、無理だと思っても命令を実行しようとして、歪みが出ても上層部に伝えられないなどということが起きます。たとえば、次回の報告までに改善しようと思うものの、結果が伴わない。それを繰り返しているうちに、組織ぐるみの隠蔽のようになってしまうことも。こういう文化の背景には「正解主義」や「減点主義の評価制度」や経営陣が過去の成功体験にしがみついているなどの問題が隠れている可能性もありますね。

戸部:有名企業のケースなどが取り立たされやすいですが、オーナー企業には「社長のいうことは絶対」のような暗黙のルールがあって、みんなが顔色を伺っていて本当のことが言えないというパターンもありますね。

露木:表面的には社員の意見を歓迎!などと言いながら、率直な意見を述べるととんでもない目に合うことを社員はみんな知っている。こういうモノが言えない文化が蔓延っていたり。

戸部:なんだか人ごとじゃない・・。反対に、よく機能する文化ってどういうものですか?

露木:やはり、その文化が価値の源泉になっていることですよね。たとえば、ホテルや航空など高いホスピタリティが求められる企業が持つ、“お客様の気持ちになる“ための豊かで細やかな想像力だったり、互いを尊重し合うような文化など。こうした企業は、そこで働く人の佇まいなどにも文化の良い影響を感じることがあります。

戸部:そうした企業も、今後、事業領域が広がるなどすると変化が求められるのでしょうが、現状はお客様からの期待とも呼応していて機能する文化ですし、企業イメージを向上させていますね。

露木:そうなんです。だから、企業にとって組織文化がちゃんとしていることはとても大切。組織文化というのは、本来は会社の強みを生み出す装置であるはずだから。

組織文化は、「企業価値の製造装置」

戸部:そうですよね。私どもが行うブランディングでは、必ずこの組織文化を見にいくのです。特に中小企業やベンチャー企業は自社のアイデンティディが大手企業ほど明確になっていないことが多く、その特徴や“らしさ”を見つけることが大事なのですが、その時、事業上の優位性だけでなく、その背景にある組織文化を見つけ出して、その関係性を考えていきます。

露木:そうですね。その企業の「らしさ」を発揮するような行動特性を社員が持っていないといけないし、その源泉が組織文化ですからね。

戸部:特に採用はわかりやすくて、組織文化に合う人でないと動機付けできないし、入社しても離職につながりやすいので、ここを丁寧に炙り出していきます。

露木:そうそう。

戸部:一方で、文化を変えたいと言って新卒採用を行う大手企業もとても多かったです。印象的なのは大手印刷企業。業種柄、保守的で調和的な文化が本来のものだけど、次の時代に向けてもっと挑戦的な人を採りたいというオファーでした。ただ、やはり社内の大半が保守&調和型の人材だと、創造的な人や挑戦的な人には魅力的に見えづらくて採用ブランドの工夫だけでは限界があります。なので、面接のプロセスやその後の育成や定着までを見据えて提案していました。

露木:ふむふむ・・。

戸部:そんな経験からも、組織文化を変えるっていうのは、本当に難しいなと感じていました。さらに最近、企業ブランディングや理念の構築・浸透まで行うようになって気づいたのが、再び組織文化の重要性なんです。まさに、企業の価値創造の源泉=製造元になっているなと強く感じるようになりました。

露木:結局、どんなイノベーションもサービスも人が作っている。そういう意味で、組織文化は「企業価値の製造装置」ということができますよね。そして、その方向性が合っていればブランドとしてしっかりと掲げていくことは重要ですよね。

外の軸ではなく自分軸で、同時に市場とお客様も見据えていること。

戸部:そうなんですよね。あと、ブランディングとなると、妙にマーケットやトレンドを意識しすぎてしまう企業があるのも気になるところです。「自社には何にも強みがない」と卑下しすぎたり、妙に今どきの若者に寄り添うとしたり。私たちとしては、もっと自分達が本来、持っている良さを見つめ直して、必要に応じて棚卸し・・が良いと思っていて。

露木:そう、外に軸があるとどうしても相手に合わせることばかりになってしまいますが、やっぱり自分軸だと思うんですよ、あくまでも。ただ、自分軸というのは自分の中だけに閉じるのではなく“自分が活かされている環境”。私は、それを“場所”と呼んでいますが、そこから生まれてきた自分達らしさで、そこにはお客様も入っているし従業員も入っている。それを認識した上で、自分たちはこういう会社だよね、ここを強めていきたいよね。と考えていくことが大切だと思うんです。

戸部:同感です。自分達の組織文化や価値観をあぶり出しながら、その上で市場環境やお客様の期待などを見て、今後どんな会社になっていくのか。アイディンティティは何かを見つけ出していくことが大事です。

露木:それをしっかりとブランドや理念だったりで打ち出していくと、結果、「それを言われてもできません」という社員も出てきますよね。それで離れていく人がいたらしょうがない。自分の魂を売ってまで(笑)、その他大勢に好かれることはできないし、それをやってしまうと、実はどんどん軸がぶれていって、何やっているかわかんなくなっちゃう(笑)。

戸部:みんなと同じ道を行くんじゃなくて、はっきり自社とは何かを打ち出して、「それがいいね」「その考え方を持つ人と仕事をしたい(取引も)」と思っていただくことが、ブランディングということもできるかなと。

露木:最終的には自分がどうしたいかですよね。会社がどうなりたいかってことだから、しっかり社員も含めて経営者と話し合っていく。その考えを製品やサービスを通してお客様に還元できてブラッシュアップし続けるような。そういう循環や関係をつくっていくと、自分たちらしさが磨かれていくと思いますね。

戸部:ブランディングというとすごく華やかな、何かお化粧するようなイメージを持つ方もいますが、私も、「素」の良さを引き出して磨いて世に問いながら、市場と対話しながら、自分たちらしさを高めていくというブランディングを大事にしたいなと思います。今日は、どうもありがとうございました。


露木先生との対話シリーズはまだまだ続きます。
次回は、『創造的な組織をつくるってどうやるの』編です。
まさに先生の専門分野です。あるあるの経営論では聞けない話をどうぞ、お楽しみに。

  • 露木恵美子
  • 中央大学戦略研究科長
  • 専門は組織論。創造的な組織を生み出すための「組織文化」のあり方を自身のビジネス経験と現象学を紐付けながら研究を行う。
    著書に「職場の現象学」「職場の現象学入門」「知識創造実践論」「ハイテクスタートアップの経営戦略」(共著)などがある。
  • https://ba-phenomenology.com/
  • https://plus-c.chuo-u.ac.jp/researcher/tsuyukiemiko/

戸部二実
株式会社カラビナ 代表
コピーライター兼さまざまな企業の課題解決クリエイティブを行う中、2019年に中央大戦略研究科へ入学。2年間のMBA生活で「組織文化」に着目した組織論に惹きつけられ露木教授の門下生に。

Written by
FUMI TOBE

CEO & CREATIVE DIRECTOR

代表取締役 クリエイティブディレクター/コピーライター 心理学科卒 91年 株式会社リクルート入社。ベンチャーから大手企業までの企業広告、ブランディングに関わる。2000年、クリエイティブディレクター/コピーライターとして独立。TCC会員。 【受賞歴】 東京コピーライターズクラブ新人賞/産業広告賞/福岡コピーライターズクラブ賞/東京コピーライターズクラブ ファイナリスト/BtoB広告賞金賞 など