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2022.08.18

わたしコラム|イロトリドリの世界〜あさみどり[浅緑]〜

 

C42 M0 Y42 K0 /R142 G202 B160

浅緑は日本人には昔から馴染みがある色です。

平安時代の貴族の装束「袍」でも第七位の色とされています。染色の際には、青色染料(藍など)と黄色染料(キハダなど)を混ぜる方法か、葛の葉を煮詰めて浅緑に染める方法があるそうです。いずれも、日本では自生している植物から簡単に抽出できる色として使われてきた歴史があります。

※袍(ほう):平安貴族の衣類のひとつの名称。上半身に上着のように身に着けるもの。下のイラストでは薄水色の衣。

そんな平安以前の昔から馴染みのある色でもあるので、和歌にも詠まれています。

古今和歌集には僧正遍照が、西大寺のほとりの柳をよんだものとして、

浅緑糸縒りかけて白露を珠にも貫ける春の柳か

という歌が選ばれています。現代訳すると「浅緑の糸が白い宝玉を連ねているような、春の柳の木の美しさよ」と言ったところでしょうか。柳の葉は濃い緑の印象が強いですが、春の若芽の頃は黄緑に近い浅緑。京都は霧の多い土地柄ですから、少し肌寒い朝、川のほとりで静かに輝く朝露と、柳の若葉の浅緑の美しさを見つけ、それを誰かに伝えたくて切り取った歌なのかな、と思うのです。1200年も昔の人の小さな発見の喜びに共感できるのは、「浅緑」という色の名前が当時から変わらずに使われ続けているおかげかもしれません。

この色の印象としては、「優しさ」「涼やかさ」「軽やかさ」「穏やかさ」「若さ」「刺激の少なさ」といったところでしょうか。

個人的にはとても好きな色の一つなのですが、デザインの仕事をしていて、なかなか使う機会がない色の一つでもあります。なにせ、濃度も彩度も中途半端で、背景が白でも黒でもほどほどに目立たない浅緑。デザインの主戦場となる広告の世界では主役にしづらい色の一つ。ロゴ制作の時もメインカラーの選択肢には基本入りません。優しさや穏やかさは、例えば保険会社さんなどにはフィットするイメージ。ただ、この色の主張のなさがロゴとしては使えない理由なのです。
逆に言えば、色から主張を感じないからこそ、リラックス効果も生まれやすい色と言えるのかもしれません。カーテンや壁紙などのインテリアとしてよく使われるのも、そういった理由なのでしょうね。

Written by
AKIRA KIKUCHI

DIRECTOR & DESIGNER

グラフィックデザイナーとして15年以上デザインに携わる。大手メーカーや官公庁をはじめ、カタログ、ポスター、ロゴ制作などグラフィカルなデザインを幅広く手がける。 近年はサイトデザインも手がけ、webデザインも対応。また、ディレクターとして、企画・提案から運営管理までのディレクションも担う。