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2022.09.13

クリエイティブに触れて|「あさになったのでまどをあけますよ」

クリエイティブに触れて 

幼少期の私は絵本の虫でした。通っていた保育所に着くとまず絵本棚の前に行き本を選びます。そして先生に読み聞かせてもらうでもなく、一人でもくもくと読む。歌の時間やお昼寝の時間はちょっと億劫で、それならば絵本棚に並ぶ本たちの読破に向け時間を使いたい。と、明確な意志があったかは定かではありませんが、ひとたびページをめくると立ち現れる奇妙で不気味で可笑しな世界に魅せられていたことは確かです。

そんな私が大人になってからお気に入りになった絵本のひとつに荒井良二さんの「あさになったのでまどをあけますよ」があります。大人になってめっきり絵本に触れる機会は減ってしまいましたが、時々気が向くと書店の背の低い書棚があるところへふらふらと入っていき、昔お気に入りだった本や目についた本を手に取ってみるのです。

子ども心あふれる絵の美しさ

それがいつどこだったか、はっきりと覚えているのはその表紙が目に飛び込んできたこと。カーテンの隙間から差し込む陽の光がカラフルな縞々で表現され、部屋に飾られた花を照らしているのです。
なんだこの世界の見え方は?と引き込まれてしまいました。

内容はとてもシンプルです。世界のあちこちが迎える「朝」が見開きいっぱいに鮮やかな色彩で描かれ、「ぼく」や「わたし」が住む場所の短い描写のあと「だから ぼくは ここがすき」と続きます。
大都会や、山の麓や、大きな川のそば、海、砂漠。それぞれの「朝」が描かれた挿絵がどれも美しいのです。子どもが自由にクレヨンで選んで描いたかのような、縞々の朝陽や、赤やオレンジに染まったビル。ピンク色の影。自由闊達な色使いに目を奪われました。

絵本の効能

自分の住む街は日常の景色で、暮らしの中で新しさを感じる瞬間はそれほど多くはありません。でも、この絵本のような「世界鮮やかフィルター」をかけたら?
いつもの朝の景色ももっと印象的に映るような気がします。と同時に、新しい景色を見に行きたい気持ちにもさせてくれます。

成長するにつれ、興味は徐々に児童文学や小説、映画へと移っていき、それに慣れるとたまに絵本を開いた時に、その観念的な世界に初めはギャップを感じることも。
なんだ、この展開は?これは、どういう意味だ?そうやって答え合わせしようとする自分に気づいたとき。「あ、ちょっと頭の中が凝ってるなあ」とお疲れ度を測る一種のバロメーターにもなっています。

世界の色鮮やかさを思い出したい時、まだ言葉もよく知らない子どもの頃の自分に倣って惹かれるままに絵本をめくってみるのです。

Written by
FUMIKO TAIRA

WEB DESIGNER

前職では輸入玩具や公園の大型遊具を扱う専門商社で公園や遊び場づくりに携わる。 ひとつのプロジェクトを形にしていく中でプロダクトやサービスの価値や想いを届ける仕事に興味を持ち、WEBデザインの世界へ。好奇心旺盛で常に何かにハマっているが、特に音楽と旅と映画が好き。うどん県出身。