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2023.09.04

クリエイティブに触れて | 見えないところで人の心を一つにする言葉。

クリエイティブに触れて 

「葡萄が、かみつく」。もう10年以上前に、こんな不思議なトーンのコピーを見せてくれたコピーライターの先輩がいました。その方は、モスバーガーを世に出したり、BESSという個性的なハウスメーカーのブランドを作ったり。単にコピーを書くのではなく、企業やサービスそのもののあり方を形づくれるクリエィティブディレクターでした。
 その方が経営する事務所にほんの少しの間だけ席を置いたことのある私。そこで学んだのが、「言葉」で止まらないコピーの仕事だった気がします。

 会話の中で聞いたこの「葡萄が、かみつく」。日本で最も有名と言っても過言でない酒類メーカーのワイン事業部向けの事業スローガン。依頼の背景に、安価なテーブルワインの部門で競合と差別化しにくいこと。自社農園を持つ強みを感じさせたい。そして、社員が誇りを持って働けるように・・というオーダーがあったと聞いています。

 コピーライターの目線で見ると、この「葡萄が、かみつく」というのはある意味、未完成な感じがするコピーです。言い切れてない感じもするし。ただ、この不安定さが、現在進行形なイキオイとか、社員のみなさん続きをよろしく!のようなニュアンスにも受け取れる。そして、込められた意図は、「ちょっとワイルドで野生味のあるワイン、そして、働くみんなも挑戦的・冒険的にね!」ということだったと聞きます。そして、この事業部ではこの言葉を柱にしてパッケージデザインや営業戦略を落とし込んでいくのです。

 リクルートにて、ずっと企業や組織、事業にまつわる広告を作ってきた、それまでの私の感覚は、コピーとは、人目につくところ・・。例えば駅とか学校内とか。雑誌や新聞、ときにT Vで使われるものという固定概念がありました。また、この業界には、目立つ大きなメディアにどーんと自分の書いたコピーが掲載されることが誉れ価値観が根底に流れている。

 しかし、この仕事は事業部戦略の資料に重要な言葉として載ることはあっても、別に大型キャンペーンとして、社内の目立つ場所にドトーンと貼られるわけでもない。「でも、何かが素晴らしくて、新しい」。

 それはこれが、事業部の中にいる当事者でも、経営のプロでもきっと作ることのできない種類のメッセージだと感じたからです。一言で気持ちよく、直感的に組み込まれた事業価値とそれを実現するためのマインドセット。すっと、誰の胸にも入る大きさで結晶化していくのは、まさにコピーライターとしての訓練を積んだ者だからできる仕事だと確信しました。

 その一方で、日本に世界に元気が出ない会社は溢れていて。けれど、その1社1社に、そこにしかない独自の価値がきっと眠っている。それをこうした言葉やデザインの力で見えるようにできたら、きっともっと元気な企業が増えていくはず。クリエイターである私たちの強みは、多角的で自由でしなやか。いい意味でジャンプした発想ができる。その思考の力を持って、真面目なビジネスパーソンのお客様とコラボレートしたら、「人の心を強く一つにするメッセージ」が届けられるんじゃないか。と、これがカラビナという会社を作った基礎の考えになっています。

 コピーやクリエィティブ。一見、経営や産業に少し遠いと思われるものとの接続について、これから少しご紹介していけたらと思います。

Written by
FUMI TOBE

CEO & CREATIVE DIRECTOR

代表取締役 クリエイティブディレクター/コピーライター 心理学科卒 91年 株式会社リクルート入社。ベンチャーから大手企業までの企業広告、ブランディングに関わる。2000年、クリエイティブディレクター/コピーライターとして独立。TCC会員。 【受賞歴】 東京コピーライターズクラブ新人賞/産業広告賞/福岡コピーライターズクラブ賞/東京コピーライターズクラブ ファイナリスト/BtoB広告賞金賞 など