よい「打ち合わせ」って、
どうすんの?
について。
もともと、ディレクター出身の私。リクルートの新人時代は、ほぼなんの経験もないのに、ディレクターという肩書きをいただき、お客様を訪問。色々と課題点を聞き出しては企画を立て、ベテランたる外部のデザイナーさん、カメラマンさん、コピーライターの皆さまに原稿作成をお願いしていました。もちろん当時から、企画も広告も大好き。自分なりには、相当勉強しているつもり、情熱もハンパなかったと思いますが、それでもシロウトはシロウト。そんな時代から、今に至るまで、ディレクションという名で、プロフェッショナルを動かし、クリエィティブチームを組成していくポイントについて、いくつかお話ししたいと思います。そして、今回は、その第一弾として、割と苦労しがちな「打ち合わせ」について、ご紹介しようと思います。
「創発」のための
準備運動。
後輩を含め若手の方が一様に、難しいというのが「打ち合わせ」です。昨今、こうした場を「発注」という会社もあるようですが、よくないですね。生み出していただきたいのは、「アイデア」。規格で形作れるものではないし、その人とその案件でしか生まれない偶発性の高いもの。だから、個人的には「発注」という言葉はないな、と思っています。それは、さておき。この打ち合わせというのは、まさにプロデューサーや制作ディレクター、CDなどが、専門性の高いクリエイターたちにアイデアを出してもらう場です。ここが、その後のクオリティを大きく左右する場になるのは、ご推察の通り。そして、この場でディレクターが行うのは、いくつかのフェイズに分かれます。一つ目は、顧客に関する情報の提供です。まずは、どんな業界の、どんなポジションのお客様で、今回は何のコミュニケーションを依頼されているのか。ようは要件ですが、ここを淡々とやるケースが多い中、私のこだわりは“一問一答”方式。たとえば、社名を伝えつつ「どんな印象、受けます?」などと質問し、イメージを膨らませながら情報を提供するようにしています。時間はかかりますが、人って言葉にするために一度、脳内で思考するので、こうした意見交換を行うだけでも、だいぶお客様のことが「自分ごと」になると考えています。また、お客様に関して、互いの捉え方が異なると戦略もブレるので、顧客のイメージや情報への価値について互いにチューニングできることもメリットかと思っています。
頭の情報量こそ、
ぜったい平等主義。
顧客や商品などについて、一定の意見交換ができたら、次には「課題」です。お客様は、課題についてこう捉えているが、クリエイターから見ると要因はなんだと思うのか。お客様のコメントに実感値を持って同意できるのかなど、課題を中心にブレストを行います。こうして、ディレクターの頭の中にある情報と、今日初めて話を聞いたクリエイターの頭の中を限りなく差異のない状況にしてから、どんなクリエイティブにすべきかを議論していきます。個人的に、ここまでで重視しているのは対等感・平等感です。当たり前ですが、商流が前にあるからといって案件の支配者になってはいけないし、クリエイターは、そうした匂いに敏感です。誰かに牛耳られた状況で、とびきりのオンリーワンのアイデアを出そうと思う人は少ないはず。あなただって、そうですよね。
俳優になって
「演じる」。
さてさて、いよいよアイデアを考えるステップに入る。で、多くの方が、やりがちなのが、早々に自分のラフなんぞを見せてしまうことだと思っています。クリエイターとしては、「よーし、わかったオレがなんとかしてやるぞー!」と意気込んできたと言うのに、早々に、ディレクターが考えた陳腐な解決策を見せられる。「うわー、こんなレベルでいいんなら、わざわざ呼ぶなよ」と思う人は多いはずです。かといって、何も考えずに望むなんて、それこそ相手に失礼ですし、何がOBラインかわからず、ご迷惑極まりない。ディレクターには、ここから是非、役者になってもらいたいのです。つまりは、打ち合わせに至るまでに、しっかりと情報整理、コンセプトワークを行った上、企画も何種類か立てておく。ただし、自分で導き出したコンセプトや企画は真っ先には見せない。(何なら、ずっと見せなくていい)その代わり、自分が考えたコンセプトと脳内で比較しながら、話を引き出し、よりよい方に話を広げていくのです。こうした面があるために、私は後輩に、「打ち合わせはヒアリング」と言っています。自分が考えたアイデアという物差しがあって、そのメリットデメリットも計算しておいた上で、話を引き出す。そうしておくと、「こういう打ち出しは?」と聞かれたときに、「こういう点が課題になりそう」とか、「こう見えたらいいけど、こっちに見えると危険かも」と意見が言えます。また、そうした会話の中に、たとえ話として自分の意見を入れることで、話の方向づけができたり、アイデアを広げやすくなるのです。
と、こうして打ち合わせは進んでいく。一度で深まらなければ日を変えて、少しアイデアを出してもらいながら、再び行う。そうして熟成させて、オリジナルの解決策を生み出していく。そんな打ち合わせというものが、個人的には、この仕事の最も華やかなシーンではないか、と思っていますし、つねに、優れたアイデアを出せる人と組ませていただいてきた。そして、その積み重ねがあったからこそ、とりあえずここにいるんだと思います。(生意気なチビすけ時代から組んでくださったすべての方に、感謝です!)