人生に関わる広告なんて、重くない?
冴えない1年目を経て2年目になったある日、テレビを点けたら江副さんが、リクルート株をダイエー中内さんに売っていました。その朝は、私に限らず多くのリクルート社員たちが、ブルーの社章がオレンジ色になるんだろうな、と頭の中で色変換していたことかと思います。
衝撃の2年目は、半年後から制作職に配属。希望の職種となり胸を張りたいところ。しかし、実態は原稿担当という職種の必要性があまりなくなり、順次、制作職へと移行していったのです。職種転換の理由が、元の職種がなくなっただけってさ?思い描いていた華々しいキャリアとはまるで無縁の日々でした。それに、当時のリクルートの制作が作っているものも、なんだかダサイ。もっと、チョコレートとか缶コーヒーとか、インスタントラーメンみたいな、人生に大して関わりのない商品を面白おかしくオシャレな感じで売る広告を作りたかった、などと不遜なことを考えていました。よくいるミーハーな若手ですね(笑)。
取材ってどうするんですか?←この質問がまずかった。
当時の制作は本当に多忙。なおかつ、リクルートは社内コンテストが盛んで、その入賞具合で査定などはもちろん、社内での扱いが上下。昨日まで目立たなかった、あの先輩がクリエイティブコンテストを獲った、となったら、急に尊敬の眼差しでみられる。奴隷から貴族階級に成りあがったくらいの逆転劇。そんな空気ですから、先輩たちはみな殺気だっていました。とにかく、目の前の仕事で入賞したい!!「あいつに負けたくない!圧倒的に勝ちたい」野心がメラメラと燃え上がっていたのです。その横に、ちょこんと配属された噂のダメ社員の私。
はっきり言って邪魔!ですよね(笑)。なので、新しい案件をもらったので隣の先輩などにうっかりと取材ってどんな感じにやるんですか?などと聞こうものなら、「お前はバカか、自分で調べろ」と怒号が飛ぶ。もう一人のリーダーこそ頼れるかなぁ、と思って相談に行っても、その人は指でピアノの鍵盤を叩く真似をしているばかり。人には興味がなかったんですね。その結果、私は、ますます期待されてないんだなぁ、と落ち込みました・・・。(今、思えば。当時は、そんな感情にすら気づく余裕もなかったのかも)
怒られたくない一心で、必殺の質問項目を編み出す!
しかーし、落ち込んでいても仕事は前に進みませんから、と気を取り直し、取材の仕方をイメージしてみたり。会社帰りに本屋に立ち寄りそれっぽい本を買ったり。当時は、インターネットもなく調べるとしたら日経テレコンがあった程度。今より調査はしにくかったと思います。そんな中、担当することとなったのが、とある業界5位くらいのメーカー。正直、あんまりよくわからない。業界順位が上でないと、日経テレコンにも情報らしい情報はない。でも、打ち合わせの翌日には営業と同行してヒアリングをしなきゃいけないのです。恐怖&恐怖。けれど、「どうしたらいいんですか」なんて、愚問を発してまたもや殺気立っている先輩を怒らせたら、どんな目に合うかわからないし。
そう思った私は、とにかく、この会社の特徴を聞き出すことができ、かつ、あまりにも勉強不足に見えない質問を考え切りました!それは、「同じ業界の中で比較して、御社の強みはなんですか?」と言う質問です。これを切り札にすると、強みがわかるだけでなく、競合関係が紐解け、業界地図が見えてきます。さらに強みを生み出す理由を深掘りすることで、社風とか働き方も見えてくる!これは、芋づる式に自白がもらえるヤツじゃん!と思いました。そして、お客様を訪問、おずおずと、この質問から始めてみたら大正解。本当に、教えてもらったことを糸口に、次々と事実を炙り出すことができて、よくわからなかった事業の特徴や業界地図、社風なんかも見えてきたのです。やったー。そして、いま振り返ってみると、これは競争優位性を把握するときの定型的なやり方と酷似していました。こういうの、窮鼠猫を噛むって言うんでしょうか。火事場の馬鹿力の一つでしょうね。
無論、日の目を浴びることはなく・・、暮なずむ。
でも、これだって、あくまで小さな自分の成功体験でしかなくて、それが華やかな結果に結びつくことはなく。周囲も多忙すぎて、私が初めての“単独取材”を成功させても、みな無関心。私も「先輩、聞いてください(ウルウル)」みたいなキャラでもなくて。気づきや小さな成功体験を披露する場もない。思えば、放置プレイの中、孤独に生きていたのだなぁ・・・。うーん、なんてかわいそうな私だったの。と思いつつ、ストーップ。なんだかんだで、独学独走タイプの私には、これはこれで案外、快適だったのかもしれないな。なんて。
とはいえ、いま、C Dだったり社長だったりする自分としては、後輩や社員にはこんな思いさせたくないなぁって思います。どっちかっていうと構いすぎてしまうところもある自分ですが。当時は、毎日をなんとか生きていくだけで必死だったし。人になんと言われても平気な“自分好き”の資質もあって、思い悩むことなく、至近距離だけみて生きていた。いやぁ!いろんな意味で冴えないなワタシ。さて、そんなダメ社員道は、さらに深いどん底へ。続編をお楽しみに。