ORGANIZATION and BRANDING
2022.07.13

課題ってどうやって見つけていますか?~戸部に聞きました | カラビナ

見つけ方 課題 

コピーライター兼ディレクターの岡村です。 今年の5月にカラビナに出戻り入社をした私ですが、「コピーライター」「ディレクター」と名刺に書かれるようになったのは、最初にカラビナに入社した2017年からでした。
コピーを書いたり、企画を考えたりするようになって、約5年。「かっこいいコピーを書けるようになりたい!」とか「斬新な企画を!」とだいぶミーハーだった私も、少しずつ考え方が変わってきました。
今回は、最近コピーや企画を考えるなかでモヤモヤしていることを戸部に質問したコラムの前編です。
もし、コピーや企画を考える仕事をはじめたばかりという方や、興味がある方に届いたら、とても嬉しいです。

コピーや企画を考える以前が、難しい

岡村:最近、コピーや企画そのものを考えるよりも、その案件の課題を見つけたり、方向性を決めたりしていくことが難しいな、と思うようになってきました。その見定めがズレてしまうと、出来上がってくるコピーや企画も、クライアントの求めるものやそれ以上のものができないと思っています。
今回は、戸部さんが案件の課題や方向性ってどのように見つけているのかお聞きしたくて。

戸部:難しい質問だね(笑)。

岡村:たとえば、クライアントから「ブランディングをしたい」というご相談があって、いろいろと話を伺うなかで、ブランディングではなく組織活性のサポートを行った、という事例がありますよね。 提案時に私はいなかったので、後でこの話を聞いて「どうして組織活性に?」って思ったんです。私がこの場にいたら、こういう提案になったのかな?って。

戸部:この事例は、ご相談いただいたクライアントの業種がブランディングを行っても直接的に業績につながりにくいケースだったんだよね。そもそも、ブランディングって何のためにすると思う?

岡村:世の中から見た企業の印象を良くしたり、知名度を上げること。あとは、その企業で働く人のモチベーションを高めたりすることでしょうか?

戸部:その通り!ブランディングには、やりがいとか何か意義を感じさせる面はあるよね。とはいえ一般的には、世の中に対してどういう風に思われたいかが一番強い。世の中にどう思われたいかとともに、それが事業や企業内の状況とちゃんと合っているかが大切。ファッションや化粧品などのブランドの場合、社名が有名になって売上をUPするなどはあるけど、このクライアントの場合は、サービスを利用するユーザーがほぼ一定なんだよね。となると、ユーザーを増やす際にブランディングが機能するとは言い切れない。

岡村:そうですね。

戸部:だから、せっかくブランディングをしても、そこまで期待する効果が起きにくいから何をやるべきかを探るために社内課題などをヒアリングして。ブランディングには「ビジネス」と「採用」があるけど、このクライアントに関しては、いろいろと話を伺った上で採用ブランディングを視野に入れた組織活性が適していると判断したんだよね。

岡村:なるほど。でも私だったら、相談をそのまま受け取ってビジネスのブランディングで企画をしてしまいそうです。業界の未来とかと絡めたりしながら。

戸部:ふむふむ。採用ブランディングを提案した理由は、求職者だけではなく、社内に対しての意思統一の面もあって。現場でサービスを提供するスタッフをレベルアップさせた方が、長期的に利用している取引先からの信頼もより高まるし、クライアントの経営にとっても良いことだよね。それに、サービスの付加価値をよりよく伝えることができれば、未来の活躍人材を採用できるかもしれないと考えたのよ。

岡村:そうですね。

戸部:だから、お客様がおっしゃる通りにビジネス向けのブランディングをするのは、いらないものを持って帰ってもらうような仕事になってしまうよね。

課題の「芽」とは?

岡村:先日調べものをしていて時期はわからないんですが、とある宅配会社が配送拠点の「おもてなし」を強化する記事を見て、少し違和感を覚えたんです。

戸部:その記事を見て、岡村はそんなに良いと思わなかったってこと?

岡村:そうなんです。その会社の配送拠点にたまに行きますが、たくさん物があって煩雑なんですけど、優しく接してくれるし、今のままでも不満はないんですよね。

戸部:岡村がその記事を見たときに、「明日配送拠点に行こう!」って思ったら良いブランディングだよね。たとえば、テーマパークやホテルで、「もっとこんな風にお客様をおもてなしします!」みたいなのを見たら、今度旅行に行くときに、視野に入れようって思わない?

岡村:そうですね。

戸部:それがまさに、何を課題ととらえるか。宅配会社が同じことを言っても、ピンとは来ないでしょう?つまりちょっと違和感あったわけだよ。これが大事で、なんでだと思う?

岡村:うーん。宅配をお願いする時って、物を壊さずに頼んだ場所に正確に届けてくれれば良いと思っていて。

戸部:その通り。つまり、このサービスの本質の上にブランディングが乗っかってないから違和感があるんだよ。だって、ホテルの場合は気分転換や泊まるのが本質で、営業所の場合はゆったり過ごす場所でもないからね。岡村が言っていた「物を運ぶ」っていう本来の提供価値とあんまり見合ってないものを上にのせてしまったから、ジャストアイデアに見えてしまっているんだよ。

岡村:おもてなしされすぎると、ちょっと構えてしまうかもしれません。

戸部:そうだよね。どう使って良いかわからないサービスって使いにくくて。メリットが伝わりにくい。同じブランディングでも航空会社は違っていて。大手航空会社とLCCって真逆でしょ?大手航空会社の場合はホテル並みの接遇とか、座り心地の良いシートとか。「移動」にかなりホスピタリティを足しているよね。でも、LCCは、そういうサービスを省いた分、かなり安くなっているよね。

岡村:そうですね。LCCだったら安いし、まあ仕方ないって思います。

戸部:だから、LCCがサービスを省いてもネガティブなことではなくて、引き算ブランディングなんだよね。でも、どちらも「安全に人を運ぶ」というコアバリューはブレていない。それまでの航空会社ってどの国でも、どうせ乗るならホテルライクにしましょうって、かなりサービスを足していて、そういう思い込みがあったわけでしょ?それに対してLCCは、「いや、そこまでサービス求めてない人もいるんじゃない?」って考えて。引き算してコアだけ残したパターンだよね。

岡村:なるほど。

戸部:だからさっきの営業所のおもてなしに戻ると、「何かを運ぶついでにカフェやります」みたいな話だとしたら、地域の憩いの場として好感度を上げるっていうブランディングに寄与するかもしれないけど、本業からズレているってなるよね。ただ、課題というのは、こういう「おや?そうかしら?」って感覚から生まれるものだから。

課題を見つけるには仮説を立ててみる。

岡村:「おや?」と思ったことが、課題を見つけるきっかけになるってことですよね。

戸部:そうそう。たとえば、採用がうまくいっていない企業とか、難しいと感じている企業って多いよね。それは逆にいうと、ほしい人が集まらないとか、moreを求めている企業が多いということ。有名企業でも普通に内定辞退が起きているなかで、それにも関わらず「うちは問題ありません!」って言われたら、問題自体がわかっていないんじゃないかって思うのが自然だと思わない?

岡村:そうですね。

戸部:だから、課題を見つけるために“相場感”は大事。一般的なケースと比較してズレがあると、良くも悪くも「おや?」となるはずだから。その課題にクライアントが気づいていないケースもあれば、既に認識しているケースもあるよね。

岡村:クライアントが課題に気づいていないケースって、どうされていたんですか?

戸部:過去に採用ブランディングを担当した新聞社様の例だけど、まず仮説立てから始めて。当時もすでにWebメディアが力を持っていたんだけど。ところで、今時の優秀人材が新聞社を志望するイメージってある?

岡村:できる人というか頭の良い人が志望するイメージ。あとはまっすぐに新聞記者志望の人とか…。でも、今は魅力的なWebメディアが溢れているからどうでしょうか…?

戸部:そうだよね。でも、頭が良いとかできる人って自分から遠い人のように捉えてしまうと仮説が立てにくくなると思わない?

岡村:確かに、そうですね。

戸部:逆に、就活生に人気の企業ってどこだろう?と考えると見えてくるよ。優秀層の学生だったら戦略コンサル会社とか、総合商社も強いよね。なんとなく皆が憧れていそうな有名メーカーもありそう。メディアだとテレビ局もあるかも、とかね。なかでも頭の良さと行動力もあるパワー人材みたいな子たちは、そういう企業に行きそうじゃない?では、誰が新聞社を受けるの?というと、さっきのパワー人材より落ち着いた学生が志望してきそうだぞ、と。

岡村:なるほど。

戸部:今度は新聞社側の視点に立ってみるけど、きっと誇り高いと思うんだよね。世界中からまだ誰も知らない情報を発信する意義を感じていそうだ、とか。各国の要人や政治家を相手に取材したり、犯罪を起こした人と話したりすることもある。そういう人は頭も切れるから、賢さは必要。そんな新聞社で輝く人材はトップエリートだと思っていそうだ、と考えて。でも、就活生の人気企業から見るとちょっと違っていて、おそらく認識がズレているのではないか?という仮設を立てた。

一般論と比べて、なぜ?を聞く。

戸部:もうひとつ、簡単な課題のあぶり出し方で、一般論をぶつけるやり方もあるよね。採用の場合なら、「一般的にここに悩んでいる会社が多いですが、御社はいかがですか?」と聞いてみる。そして「そうなんです」って言われたら課題が1個見つかったことになるよね。

岡村:おお!そうですね。

戸部:「うちは悩んでない」って言われたら、どんな工夫をしているのか聞いてみることで話が広がって、もっと奥にある本当の課題に気づけるかもしれない。そこから、さらに御社が一番解決したいことは何ですか?とか聞けるといいよね。基本何を聞くときもwhy?で聞く。

岡村:そもそも、「何が目的か」と考えられないと企画もコピーも出せないし、なぜ?を知るところからなんでしょうね。

戸部:そう。一番知りたいのは、クライアントがどうなりたくて、現実とどんなギャップがあるんだろう?ってこと。そこで、本来その企業が持っているポテンシャルが発揮されていないケースもあれば、例の新聞社のように自己認識にズレがあるケースもあるし。課題をあぶり出す時に、仮説を立てるにしても一般論をぶつけるにしても情報収集をすることは大事。

なりきって、いろんな目でみて、冷却する。

岡村:例の新聞社の採用ブランディングで、どのように提案まで考えられたんですか?自分だと仮説立てをする時にどうしても主観が入ってきて、要望に沿わない提案をしてしまいそうだな、思ったのですが…。

戸部:そうだね。その人になりきって考えることが大切。これはコピーライターにも必要な思考だよね。なるべく立場を切り替えて、いろんな視点になってみる。まずはクライアントの目線で考えていそうなことを、バーッとメモに書いて。たとえば自分が新聞社の人だったら、今はネットを通じて皆が情報発信できるけど本当のジャーナリストは自分たちだ、とかね。良いことも悪いこともメモに出す。一方で企画を立てる時には、客観性に見てどうだろう?ってやるんだよ。

岡村:なるほど。

戸部:なりきった後に一旦冷却して、客観的に見ると多角的な気づきがある。それをクライアントに提案する。ただネガティヴなことはそのまま伝えるんじゃなくて、ファクトを持っていくんだよね。当時有名企業に入社した新入社員100人が就活でどの企業に応募をしたかのアンケートをして。結果、新聞社を受けた子は1人しかいなかった。それも別の新聞社で。それを持って行って、クライアント自身に考えてもらうようにしました。

岡村:事実を見せて、どうしたいかを言ってもらうんですね。

戸部:アンケートを渡した時に「新聞ってこれからどうなるんでしょうね?」って話をしたんだよね。新聞は、一面に載るようなニュースから経済に家庭欄、テレビ、といろんな情報が載っているよね。マニアックにひとつのことを深くというよりは、広い視野でここに面白いものあり!と見つけられる人の書く記事の方が面白いんじゃないか。そういう学生の就活っていろんな会社に行って知見を広げたいだろうから、その子たちが興味を持ってもらえるような採用ブランディングを提案して、クライアントも「そうだよね」ってなったんだよ。

岡村:おお~。

戸部:やはり最初に仮説を立てることが大切。仮説がないと課題も出にくい。仮説を持たずに「課題は?」って聞くんじゃなくて、仮説を検証するために質問をしていくんだよね。

岡村:情報収集で3Cがありますが型がある分、提案の切り口も決まってしまいそうな気がしていたんです。でも3Cもしっかりやった上で仮説を立てて考えれば、企画やコピーもユニークになりそうですね。

戸部:そうそう。3Cの段階では、情報が多い方がいいので、見つかった情報をどんどん集める。できれば、情報収集した後とか、思いついたことをメモしたり企画書やコピーを書いたりした後も、一度冷却期間を置いた方がいいよ。

岡村:一気にやろうとしない、ってことですね。

戸部:やっぱりずっと側に張りついていると、判断ができなくなるんだよ。特に企画は多角的にやるのが良いから作業をしたら一旦休むとか別の案件をやるとか、蓋をして冷却しないと。そして、改めて自分の目線、クライアントの目線、さらにクライアントの顧客の目線、あとはもっと俯瞰で見た神様目線で、見直してみる。考えた時は良いと思ったけどそうでもなかったとか、これはキラリと光ってたから間違いがないなとかさ。考える時は一旦寝かせる、発酵させる、っていう冷却期間が大事なんだよ。

岡村:ありがとうございます。

企画書やコピーを書く前が難しいと思っていましたが、深く情報を集めて考える時間なのだと改めて感じました。この時間を濃いものにして、よりよい提案をしていきたいです。

Written by
SATOKO OKAMURA

DIRECTOR & COPYWRITER

大学時代はメディア表現学を専攻。フリーペーパーの広告営業、企業が発行する会報誌等の企画編集を経て、カラビナに入社。好きなものは1960~70年代のロックと映画、落語。映画好きが高じて映画館でアルバイトをしたことがある。肉全般と立ち食い蕎麦、どら焼きに目がない。