クリエイティブに触れて|プレイリストを贈ること
人気カウント206
「結婚披露宴のBGMを何曲か選んでほしい」と大学からの友人に、居酒屋で言われたのは数ヶ月前のこと。大学を卒業してからも、頻度は減ったものの、定期的に居酒屋に集まっては仕事のことや最近あった出来事を、あーでもないこーでもないと片やビール、片やサワーを手にしゃべり倒す仲です。「○○歳になっても、独身だったら一緒に暮らそう」と言い合ったのに。いつ会っても気のいい友人は、彼女と同じくらい気のいい人と出会って結婚をしました。そんな大好きな二人の晴れの日のBGMの選曲をするなんて。こんなに光栄なことはありません。
どれだけ光栄なことかというと…私は自分が「音楽オタク」だと思っていません。私よりも音楽に詳しい人は山ほどいるし、こうしてコラムに書くことも恐れ多くて憚れるくらいです。無人島に持っていくレコードのことは、考えすぎて考えるのをやめました。ニール・ヤングの『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』、キャロル・キングの『つづれおり』、ジョニ・ミッチェルの『ブルー』、ティーンエイジ・ファンクラブの『バンドワゴネスク』『ソングス・フロム・ノーザン・ブリテン』、ドーター・オブ・ソードの『ドーンブレイカー』を心の友としてきた、そんな私に一生に一度しかない大切な日のBGMを選ばせてくれるなんて…と感激したくらい光栄なことなのです。どうです、面倒くさいでしょう?プレイリストをつくることは「日曜の朝に聞きたい曲」とか日常的なことでもあり、特別なことでもあると思っています。小学生の頃に『オブラディ・オブラダ』が聴きたい、と言う私に父がザ・ビートルズの曲をまとめたカセットテープをつくってくれました。私の音楽の原点はきっとこのカセットテープです。誰かのためにプレイリストをつくることが、どれだけ特別なことか。また、結婚披露宴で流す曲といったらラブソングが中心になるかと思いますが、いかんせん私の好きなラブソングは、終わってしまっている恋愛について歌っているものばかり。これも私を悩ませる要因でした。
前置きが長くなりましたが、友人の結婚披露宴のBGMに悩んでいる時に思い出した小説が、ニック・ホーンビィ著『ハイ・フィデリティ』です。1995年に出版され、2000年に映画が公開されています。はじめて読んだ(観た)のは大学1年だった19歳の頃。アルバイト先の映画館の社員さんに「好きだと思うよ」と勧められたのがきっかけです。当時の感想は「何、この面倒くさい主人公(ロブ)」でした。もしも、友人の恋人がロブみたいな人だったら、友人の顔が曇らない程度にボロカスに言うことでしょう。しかし、数年後、20代半ばになって読み返してみると、あんなに面倒くさいと感じていたロブに「これは、私か…?」と共感するなんて。
あらすじは、儲からない中古レコード店を営むロブと弁護士のローラのカップルが同棲の危機を迎えて…という内容ですが、ロブが編集したカセットテープをローラに贈ったことをきっかけに二人が付き合い始めるなど音楽オタクが胸をときめかせてしまうようなネタばかり。注釈に終始するあとがきも、なんだかいとおしい。自分がみじめだから音楽を聴くのか音楽を聴くからみじめなのかと考えたり、「何が好きか」で人を判断したり、どうしようもないけれど、ロブの気持ちがよくわかる。どうしようもないロブだけど、ローラみたいな素敵な彼女がいるように、いつか私にもそんな誰かが現れるだろうか…と将来が不安になり、さめざめと泣いたものでした。そこからさらに大人になった35歳の今、「何が好きか」ではじまった関係は『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』の3曲目までがいかに完璧かは話せるのに、すれ違いや違和感とか話すべきことは話せないむなしいものだったことも経験しました。そんな夢見がちで大人になりきれない私みたいな人間が、孤独にならないにはどうすればいいのか?それは、この夏夢中で観ていたNHKの連続テレビ小説『芋たこなんきん』に答えを見つけたような気がしました。小説家・田辺聖子の半生を描いたドラマですが、ヒロインの町子と「カモカのおっちゃん」こと健次郎が、晩酌で話すシーンが好きでした。何でも話してきた夫婦。それは町子も健次郎も自分に自信があったからだと気づいたのです。自分の考えにある程度自信がないと、相手の話を受け入れるのも難しい。自分に折り合いをつけて、地に足をつける。そう思えた時に、夢物語だと感じた『ハイ・フィデリティ』のラストに納得ができたのです。ロブも、地に足をつけたのだ、と。
私が地に足をつけるのは、まだ少し先になりそうですが、友人の結婚披露宴のBGMは選べました。日曜日のお昼の披露宴に流れていたら、会場をあたたかくて幸せな空気で包んでくれそうな曲。喜んでくれたら嬉しいな、と願うばかりです。
RELATED ARTICLE
関連記事
-
VERY GOOD CONTENTS
クリエイティブに触れて|国立科学博物館特別展示『和食展』
科学の目で身近なものを見る楽しさ ずっと思っていた東京の水への違和感。 今回は、和食展に行ってきました。最近お気に入りの国立科学博物館の特別展示です。 展示は2部構成で、前半が国立科学博物館らしい、和食を科学の目で紐解いていくもの、後半は和食に付随する農業や漁業、日本・世界の食文化の違いについてと和...#クリエイティブに触れて
人気カウント268
-
VERY GOOD CONTENTS
わたしコラム|初詣はつらいよ
毎年恒例の初詣ラン、今年も敢行してまいりました!コースは例年通り、江戸川河口付近から河川敷を川上に向かってさかのぼり、柴又帝釈天までの約10km。そして、この季節は川上に向かって走ると強い向かい風に見舞われるというのも例年通りで、通常の倍近くの体力を要します。ここ数年の体力の減退とトレーニング不足が...#アクティブ
人気カウント246
-
VERY GOOD CONTENTS
わたしコラム|健康な1年でありますように。
こんにちは。コピーライター兼ディレクターの腰川です。 突然ですが、皆さんは、救急車に乗ったこと、ありますか?私は、恥ずかしながら人生で4回。今年も新年早々、お世話になりました。救急隊員と救急病院の先生や看護師さんに「忙しくして、ごめんなさい」と想いつつも、自分ではどうしようもできない痛みと不安を癒し...#コピーライター#抱負
人気カウント256
RANKING
人気記事
-
VERY GOOD CONTENTS
わたしコラム|イロトリドリの世界〜アップルグリーン[APPLE GREEN]〜
C40 M0 Y55 K5 /R143 G193 B134 アップルグリーンは、その名の通り、青りんごの色。日本のりんごは赤のイメージで、青りんごの流通は多くないですが、海外では青りんごもそれなりに出回っているので、より馴染みのある色で、アップルといえば、グリーンをイメージする人も多いようです。 幼...#色
人気カウント845
-
VERY GOOD CONTENTS
クリエイティブに触れて|ロバート秋山の市民プール万歳
「クリエイティブに触れて」第1回、私がみなさんにご紹介したいのは、amazonプライムで見つけた番組です。タイトルは「ロバート秋山の市民プール万歳」。番組の説明には、「市民プール愛好家のロバート秋山が、日本各地の市民プールをただただ遊泳する」とあるではないですか。私の頭の中は軽いパニック。市民プールの番組?見たことない。そもそも番組になるの?しかも再生時間は60分。シリーズ1は6エピソードあり、シーズン2も出ている。市民プールで泳ぐだけでシーズン2?ネタでもやるの?ゲストを呼んで掛け合いか?ディレクターでもないのに気になることだらけで、思わず再生してしまいました。#クリエイティブに触れて
人気カウント654
-
VERY GOOD CONTENTS
クリエイティブに触れて|東京 上野『国立科学博物館』地球史ナビゲーター
地球史ナビゲーターは、次世代への最高の贈り物 歴史好きが災いして、とんでもない沼にハマる 今回は、国立科学博物館に行ってきました。 お子さんがいらっしゃる方なら、行かれたことがある方も多いのではないでしょうか。今回訪れてみて、お子さんが小学生になって文字がある程度読めるなら、ぜひ連れて行ってあげてほ...#クリエイティブに触れて
人気カウント535
人気記事
-
CARABINER MVV
企業スローガンとは?社是と何が違う?中小企業やBtoB企業での効果的な事例も紹介
ここではミッション、ビジョン、バリュー(MVV)、それぞれの意味や作成方法、その効果や浸透策についてご紹介していきます。企業はミッション、ビジョン、バリューなどの理念体系をまとめることで、自社が目指す方向が明らかになるなど、組織や経営に与えるメリットは多数あります。一方で、どの会社でも言えるような、ミッション、ビジョン、バリューになってしまうと、むしろ社員を迷わせてしまったり、企業への尊敬を薄めてしまったりするケースもあります。経営戦略とも密接に絡みながら、自社の目指すべき方向性やどのように社会に価値を返すかを定義していくミッション、ビジョン、バリュー。自社らしい価値を磨き上げることで、企業の成長に寄与する効果を生み出していきたいものです。人気カウント2657
-
CARABINER MVV
ビジョンとは?中小・BtoB企業にも必要?策定方法や導入事例もわかりやすく解説
ここではミッション、ビジョン、バリュー(MVV)、それぞれの意味や作成方法、その効果や浸透策についてご紹介していきます。企業はミッション、ビジョン、バリューなどの理念体系をまとめることで、自社が目指す方向が明らかになるなど、組織や経営に与えるメリットは多数あります。一方で、どの会社でも言えるような、ミッション、ビジョン、バリューになってしまうと、むしろ社員を迷わせてしまったり、企業への尊敬を薄めてしまったりするケースもあります。経営戦略とも密接に絡みながら、自社の目指すべき方向性やどのように社会に価値を返すかを定義していくミッション、ビジョン、バリュー。自社らしい価値を磨き上げることで、企業の成長に寄与する効果を生み出していきたいものです。人気カウント1564
-
CARABINER MVV
ミッション、ビジョン、スローガン、それぞれの違いとは? | カラビナ
企業の採用やブランディングにおいて重要なミッション/ビジョン/スローガンについての詳しい解説です。会社の根幹を担う考え方を正しく理解する事は、業績や社員のモチベーション向上につながります。#ミッション#ビジョン#スローガン#違い#ミッション/ビジョン/スローガン
人気カウント924
-
VERY GOOD CONTENTS
わたしコラム|イロトリドリの世界〜アップルグリーン[APPLE GREEN]〜
C40 M0 Y55 K5 /R143 G193 B134 アップルグリーンは、その名の通り、青りんごの色。日本のりんごは赤のイメージで、青りんごの流通は多くないですが、海外では青りんごもそれなりに出回っているので、より馴染みのある色で、アップルといえば、グリーンをイメージする人も多いようです。 幼...#色
人気カウント845
-
CARABINER MVV
インナーブランディングが必要な組織とは?中小・BtoB企業などの事例も
ここではミッション、ビジョン、バリュー(MVV)、それぞれの意味や作成方法、その効果や浸透策についてご紹介していきます。企業はミッション、ビジョン、バリューなどの理念体系をまとめることで、自社が目指す方向が明らかになるなど、組織や経営に与えるメリットは多数あります。一方で、どの会社でも言えるような、ミッション、ビジョン、バリューになってしまうと、むしろ社員を迷わせてしまったり、企業への尊敬を薄めてしまったりするケースもあります。経営戦略とも密接に絡みながら、自社の目指すべき方向性やどのように社会に価値を返すかを定義していくミッション、ビジョン、バリュー。自社らしい価値を磨き上げることで、企業の成長に寄与する効果を生み出していきたいものです。人気カウント845


