クリエイティブに触れて|アルジャーノンの世界
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私にとって「人生のバイブル」と呼ぶものが3冊。そのうちの1冊ダニエル・キイス著「アルジャーノンに花束を」を数十年振りに読み返しました。きっかけはヨルシカの楽曲「アルジャーノン」に出会ったことでした。
ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」
物語は主人公チャーリーの自伝のようなものであり(一人称「僕」でチャーリーが書き綴ります)、もともとはチャーリーが知的障害を持つ人物であることから、物語の前半は誤字脱字の多い平仮名表記であり、物語の途中から、とある知能を上げる手術を施されたためにチャーリーの知能レベルが急激に上がり、見違えるような大人の文章になります。
ただし、知能が上がるということは必ずしも幸せなことではなく、チャーリーが今まで知らなかった外の世界の出来事やそれに伴う自身の感情に出会い、傷付くことになります。
そんなチャーリーの唯一の友だちが、先に同じ手術を施されたハツカネズミのアルジャーノン。知能を上げる手術により、アルジャーノンの知能は急激にあがったものの長くは続かず、手術の副作用で精神混乱を招きつつ、やがては知能がもとに戻ってしまい死んでしまう。
自分より先に手術を受けたアルジャーノンの姿を目の当たりにしたチャーリーは、戻りつつある知能の中で自身の行く末を悟り、人知れず旅立つ。
物語の最後は「どうかアルジャーノンのお墓の前に花束を供えてください」というチャーリーの言葉で締めくくられます。
知能が発達することは必ずしも幸せなことではなく、時には知らなくてもよかったことを知り、目を反らすことができなくなってしまう…
ヨルシカ「アルジャーノン」
ヨルシカ「アルジャーノン」のMV映像は、一度見ただけでは正直なところよくわからず、2度・3度繰り返し見る度に発見があり、解釈が深くなり、よりアルジャーノンの世界観を感じられるもの。
映像はゆっくりと静かに流れ、終盤に差し掛かるにつれ、映像が逆走。まるで、知能を得たチャーリーがまた知能を失い、もとの状態に戻ることを表現するかのごとく。
花が咲く/咲いた花が蕾に戻る、廊下を歩く/廊下を逆走するなど、映像をバックにゆっくり静かにメロディが流れる。メロディや歌詞の奥深さもさながら、映像でも魅せられるヨルシカの表現力に改めて感銘を受けました。
物語の解釈
さて、話を「アルジャーノンに花束を」に戻すと、チャーリーの知能が上がったのにどうして幸せになれなかったのか?
この問いの解釈は人それぞれだと思いますが…
「そうではないよ、こういう側面があるよ」と一言添えられる味方(大人)がいなかったのでは…?
少年の心を持つチャーリーがからこそ、言われたことや自身の感じたことを純粋にまっすぐに捉えてしまったのでは…?
それとも…
物事を一面からしか見ないと悪い面のみを感じるかもしれない。
第三者の意見を聞いてみて、側面から見ること、その意見を自分の中に取り入れられることができれば、見方も考え方も変わり、よいものとして感じ取ることができるかもしれない。
改めて、この物語が長く読まれる理由を垣間見たような気がしました。

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