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2022.08.22

クリエイティブに触れて|石岡瑛子というクリエーターとの一コマ

クリエイティブに触れて 

東京都現代美術館に石岡瑛子さんの回顧展を観にいった時のこと。
1年少し前のことではあるのですが、今でもあまりに強烈な印象が残っているので、この場をかりて一筆。

デザイナーであり、アートディレクターである石岡瑛子さんといえばこの業界にいる人なら少なくとも名前は聞いたことがあるはず。
またその輝かしい作品や功績等々についてはワタクシごときが語ることでもなく。
なので、あえてワタクシごときが語らせていただくのは、その回顧展でのほんの一コマ。

あるコーナーでポスターのデザインを印刷入稿するための版下とその色校正を展示しておりました。今でもデータとしての版下はありますが、年代的にはアナログ時代のこと。
ワタクシも長年デザイナーをやっているので、まだ駆け出しの頃は当然、アナログ時代の真っ只中で、印刷入稿するのはリアルに紙の版下が当たり前の時代。
その版下にのせたトレーシングペーパーに印刷(製版)への指示を手書きで書き込んでいくのですが、その指示の凄いこと!当時はその指示書きでデザイナーの気持ちがわかると言われたものですが、石岡さんのその版下は作り手のほとばしる情熱が溢れているのです。

ワタクシも当然、版下制作はしていたのですが、この版下を見た時には鳥肌が立ちました。レイアウト上での表現はもちろんのこと、陰影の付け方、色指定の緻密さなどなど。それはもう指示と言うより挑戦状そのものなのです。

そしてその隣にはその挑戦状を受け取った色校正が。ワタクシごときが見ると、ものの見事に仕上げてるっ!と思ったのですが、その色校正にもまたもや挑戦状のごとき指示がビッシリ。そしてその隣にはまた色校正が。
それが何枚も続きます。一体何校まで?徐々に指示は少なくなるのですが、その攻防戦たるや、創り屋同士の情熱と意地のぶつかり合いです。

思わず立ちすくみながらも延々と見入っていた記憶があります。そして、かつては自分にもほとばしっていた頃があったことを思い出させてくれました。
今はMACの前にちんまり座ってネットの世界を回遊しながら、それなりにデザインをしているつもりでいますが、「あの頃の情熱を忘れちゃってるんじゃない?」それを自分に問いかけられたような一コマでもありました。

Written by
TAKESHI ITOH

DESIGNER

広告デザイン一筋に、各種クライアントの雑誌広告、新聞広告、ポスター、パンフレットなどの商業広告から、イベントブースの設計・デザインなどの制作業務全般に携わる。現在もグラフィックデザイナーとして現場を兼ねつつ、アートディレクターとして、企画・提案から制作・進行管理までを担当。