CARABINER MVV
2023.03.29

ミッション、ビジョン、バリューの作り方とは?それぞれの意味や違い、事例を解説!

目次


ここではミッション、ビジョン、バリュー(MVV)、それぞれの意味や作成方法、その効果や浸透策についてご紹介していきます。企業はミッション、ビジョン、バリューなどの理念体系をまとめることで、自社が目指す方向が明らかになるなど、組織や経営に与えるメリットは多数あります。一方で、どの会社でも言えるような、ミッション、ビジョン、バリューになってしまうと、むしろ社員を迷わせてしまったり、企業への尊敬を薄めてしまったりするケースもあります。経営戦略とも密接に絡みながら、自社の目指すべき方向性やどのように社会に価値を返すかを定義していくミッション、ビジョン、バリュー。自社らしい価値を磨き上げることで、企業の成長に寄与する効果を生み出していきたいものです。

ミッション、ビジョン、バリューの意味とは

ミッション、ビジョン、バリュー(Mission,Vision,Value)とは、いわば企業価値の根幹、企業が運営する事業サービスを通して、どのような社会を生み出すのか、どのような信念を持つのかを言語化したものです。ミッションは企業の果たすべき役割=使命や天命。ビジョンは描きたい世界観や志、夢。バリューは、その二つを実現するための価値・行動スタンスなどと捉えることができます。また、もともと日本には「社是」や「理念」という言葉があり、創業の際に創業者が自分の考えや姿勢を言語化し、社員に向けたメッセージとして掲げてきた経緯があります。このように、かつては社是や理念と括っていたものを、時代感覚に合わせてまとめ直しグローバルにも通用しやすいよう整え直したものが、ミッション、ビジョン、バリューだと考えても大きく間違ってはいません。ただ、明治や大正、昭和期などの古い時代に掲げられている社是は、あくまで創業者個人のスタンスを示したものが多く、やや精神論に見えたり抽象的、時代に即していないなどの課題もあります。過去からつながる社是や理念などを持つ企業では、その中心的な考え方や価値観を見つめ直し、今の時代に合うような戦略性やエッセンスなどを加味し、社員や取引先、求職者など、誰が見ても一定の理解ができるよう体系立てたものをミッション、ビジョン、バリューとして落とし込むことも有効です。

ミッション、ビジョン、バリューを簡単に説明すると

ミッション、ビジョン、バリューを簡単に説明すると、その企業の本質とも言える「価値観」や「作りたい世界観」「社会貢献の方向性」などを明確にすること。経営戦略との整合性も必要で、同じような事業を行う企業を鑑みながら、自社ならではの付加価値や「あえて自社だから、取り組む価値のあること」「企業が大切にする信念が、いかに社会の課題解決に役立つか」を整理していく活動。ミッション、ビジョン、バリューを整理し、社内外に周知させていくことで、商品やサービスだけでは見えてこない企業の思いが伝わり、その企業のファンや支援者、共鳴者が増えていくメリットがある。従業員へのエンゲージメントや採用にも、良い影響を与えることが多い。

ミッションの意味とは?ビジョンと何が違うの?

ミッション、ビジョン、バリューと、一口にいうものの、多くの方が、ミッションとビジョンの違いとは何か?さらに、ミッションとパーパスの違いとは何か?と戸惑ってしまうのではないでしょうか。そもそも、ミッションは、英語でMission。直訳すると「天命」という意味で、神から与えられた使命と捉えることができます。ミッション、ビジョン、バリューの考え方は欧米が発信者で、神との契約として個人の天命(ミッション)を果たすことが生きる意味であると捉えるキリスト教=ミッション系の考え方がベース。つまり、仏教がその精神性のベースにあり、あまり信仰心の篤くない多くの日本人にとってはやや馴染みにくい価値観ではないでしょうか。

 こうした背景から、多くの企業ではミッションを社会や顧客と自社との関係を定義するものと捉え、「自社が顧客や社会に果たすべきこと」をミッションとして掲げるケースが多いようです。それに対してビジョンとはどのようなものでしょう?ビジョン=Visionとは、その言葉通り、「ありありと見えるもの」「つくりあげたい世界観」。Visionの語源がViewであることを思い起こすと、その理解が早まるのではないかと思います。そのため、ビジョンは自社が創りたい世界や創りたい社会・サービスなどを描き出すことが大半です。

 ミッションを社会や顧客に対しての約束やスタンスの表明としてつくり、ビジョンを自社が創りたい世界観として描くことで、企業が向かうべき方向が2つの観点から、より鮮やかになっていくのです。

バリューの意味とは?

ミッション ビジョンと少し異なる性格を持つのが、バリューです。英語にするとValue=価値と考えることができます。しかし、バクッと価値と捉えてしまうと、ミッションもビジョンも企業価値を体現するもののはずなのにと、混乱した気持ちになってしまうもの。そこで、バリューに関しては、ミッション ビジョンを実現するための「自社の価値=行動のスタンスや指針」として捉えると、すっきりと整理することができるでしょう。バリューは、どちらかというと、ミッション ビジョンを下支えするための「価値感や姿勢」であるため、“誠実に“、”常に創造的に“などといった、まさにその企業が成果を出すための姿勢を具体的に書き出す企業がほとんどです。つまり、改めて、ミッション、ビジョン、バリューの3つを整理し直すことで、企業が社会にどのような価値を発揮し、どのような未来を(世界を)つくり、そのために具体的にどんなアクションを(価値ある行動を)示すのかが、社内外に宣言できる状態になるのです。

MVVと経営理念や社是との違い

MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)と経営理念や社是との関係は、非常に近く、どちらかというと歴史を経ながら、企業経営の軸となる考え方を洗練させ、グローバルで見てもわかりやすい形に整え直したものが、MVVということができるでしょう。歴史ある日本企業の多くが創業時や創業者の言葉として「社是」や「信念」というものを持っており、大切にしています。その活用度合いや社員への浸透度は企業によってばらつきがあるものの、その言葉を残し、重要な会議や年初の挨拶などで掲げる企業は多いのではないでしょうか。このように、もともと、何らか理念と言えるものを大切にしてきた企業の場合は、その理念を時代に合わせてミッション、ビジョン、バリューとして整理し統合するのか、社是や経営理念は残したまま、新たにミッション、ビジョン、バリューを開発し、古い社是などと共に、その関係性を整理し直すケースなどがあります。この判断も企業により、その事業ステージや経営者の考え方によって異なるものの、大きな意味では企業の根幹に関わる考え方をまとめたものとして、同じような役割を果たすものと理解して良いと考えます。

  • ・消費財などでは、永く愛され購入される商品を育てることにつながる
  • ・その商品・サービスを使うことへの憧れを喚起でき、高い利益を生み出すこともできる
  • ・BtoBビジネスでは、「このサービス=○社」と言う存在になることで問い合わせ等が増える
  • ・企業姿勢に共感する個人投資家が増え株価などによい影響が生まれる
  • ・優れたブランディングイメージを獲得することで社会的信用が増し、ビジネスによい影響が生まれる
  • ・優れたブランディングイメージによって金融機関等からの理解が高まり資金調達に好影響が生まれる
  • ・魅力あるブランディングイメージによって採用活動にもよい影響が生まれ優秀人材が集まりやすい、人気企業としてランクインする
  • ・企業活動への理解者が増えることで、社会的な信用が高まり様々な活動への支援・応援が得られやすくなる。

MVVを作成する目的

ミッション、ビジョン、バリューを作成する目的は、企業が進む方向性を社内外に明らかにすることで、まず企業自身が自社の果たすべき役割を再認識し、経営の方向性がよりシャープに明確になる、経営スピードが早まることを狙いとしています。

同様に、株主やステークホルダーに自社が目指す姿を表明するためにミッション、ビジョン、バリューを構築、再整理するケースもあります。

さらに、社員や従業員への経営メッセージを明確化するためにミッション、ビジョン、バリューを構築するケースもあります。こうしたケースでは、通常の経営からのメッセージが売上や利益目標、市場シェアなど数値中心になってしまい、従業員のモチベーションが上がらない、働く意味や仕事の魅力が読み解けず、結果的に業績が下がってしまう、離職などが相次ぐなどの課題がある場合にも、ミッション、ビジョン、バリューの見直しから自社のあり方を再検討するケースが見受けられます。

ミッション、ビジョン、バリューを作成する目的とは

  • ・顧客との永く安定的で良好な関係を築くため
  • ・ステークホルダーとの永く良好な関係を築くため
  • ・商品やサービスの背景にある企業としての思想・価値観を通して長期的な関係を築くため
  • ・社会貢献性の高い企業、視座の高い企業と認識され企業イメージを向上させるため
  • ・企業の方向性が明らかにし、自社に合う優秀人材の採用を行いやすくするため
  • ・企業活動に共感・期待する個人投資家を増やしていくため
  • ・企業活動への理解が深まり社会的信用を増大していくため
  • ・従業員の満足度を上げ、何のために働くかなど仕事へのモチベーションをアップさせるため

MVVの作成や見直しで得られる効果・メリット

ミッション、ビジョン、バリューの作成や見直しで得られる効果は、まずは自社の社員に対して企業の目指す方向が明らかになりエンゲージメントが向上することです。MVVの内容を把握して、自分の行動の正しさに自信を持つ社員もいれば、行動を改善せねばと気づく社員もいるはずです。また、MVVの構築と合わせて評価基準などを作り直す企業もあります。これは、社員へのメッセージとして非常に明確である一方、後戻りの利かないリスクも孕んでいます。それに対して、MVVの浸透を工夫することで、緩やかに社員に気づきを与え徐々に、理念行動が加速していくなどの効果を狙うこともできます。

ミッションやビジョンを明示する、もう一つの効果は、顧客や社会に対しての「明確な宣言」になることです。自らの価値を明言することで企業自身も後戻りできなくなり、必ずそのビジョンを叶えると強い意思を持つことができます。もちろん、顧客からの期待も高まるために、顧客自身がMVVの監視役であり応援者となり、その実現を加速させる環境を作ることができるのです。

MVVを構築するメリットとしては他に、商品やサービスのレベルアップが挙げられます。商品開発の際に、「この商品はMVVにかなっているのか」とチーム内で検証が進むほか、社員が迷った時の指標にもなります。特に消費財などではその効果は明確であり、このMVVと商品・サービスの体験が、企業のブランディングとして「ファン形成」や「信頼の獲得」につながっていきます。

また、MVVを整理することで、その理念に共感する投資家や提携先企業が集まりやすくなり、資金調達や事業の発展が行いやすくなっていきます。

同様に、採用においても、MVVを確認して、同業と比較し、自分の思いに近い企業を第一志望にする。商品やサービス、一般的な企業イメージなどの表層ではわからない、企業の意志に気づき、活躍しやすい人材が集まるなどのメリットが生まれます。

企業の姿勢への理解・共鳴が進むことで、支援者が増える

ミッション、ビジョン、バリューを構築するメリットは、提供する商品やサービス、事業だけでは伝えきれない企業の姿勢や考え方が伝わることです。たとえば、その商品を愛用する顧客が、ある時、企業サイトなどを閲覧した際に「ここまで、使い手のことを考えて商品を作っているのだな」と感銘を受けたり「このサービスを使うことで、この企業が目指す“社会”に共鳴した」などと感じ、競合ではなくずっとこの商品を愛用したい、と感じてくれることがあります。また、BtoB企業であっても、ある提案やサービスを受けた取引先が、「どんな姿勢なのだろう?」とネット検索を行った際に、「視座が高く、大きな志を持っている」と感じ経営に提案を挙げやすくなったり、「いつも、丁寧に説明してくれるのは、こんなビジョンやバリューが設定されているからだな」と信頼感を感じてくれるなどの効果が想定できます。こうした活動は、非常に地道である反面、じわじわと多くの人に伝わり、いつしか不動の信頼感や一定の企業イメージを獲得することにも繋がっていくのです。

価値観に共鳴する、提携先が増える

MVVの明確化により、その企業の考え方や価値観に共鳴する企業が増えることで、同じような価値観を持つ企業からの支援も集まりやすくなります。自社のサービスとの提携先を探している企業が、幾つもの選定先の中からサービスやビジネスモデルの背景にある考え方を把握することで信頼感やシンパシーが増していき、話が纏まりやすくなるなどのメリットが考えられます。この傾向は、特にBtoB企業の方が効果を感じやすいでしょう。なぜなら、BtoB企業の多くが認知度に乏しく、その企業の実態や考え方を知る機会が少ないからです。外からは似て見えてしまう、多彩なサービスの裏にある思いを知ることで安心してパートナー関係に踏み込みやすくなるのです。

個人投資家からの共感が進み株価によい影響が生まれる

企業が、自社のミッションやビジョンを表明するメリットは、取引のシーンだけではありません。「信念のある企業だ」「サービスの背景にある考え方に共鳴した」といった気持ちを掻き立てることで、個人投資家からの投資を得やすくなるメリットもあります。これはすでに上場を果たしている企業だけでなく、これからIPOを目指す企業などでも意識したい考え方です。BtoB向けのビジネスを行うベンチャー企業などは、どのようにして企業の成長性や将来性を判断すればよいのか、わかりにくいモノです。そこで、しっかりと理念を伝えることで、「先見性がある企業だ」「視野が広くクレバーだ」「ベンチャーだが、環境への意識が高く応援したい」など様々な期待を抱いてもらえ、資金調達の一助となるはずです。また、こうしたMVVの制定と合わせて、サスティナビリティやSDGsなどへの対応の仕方も、サイトなどでしっかり押さえておくことでより安心感や信頼感の高い企業イメージを獲得することができるでしょう。

社会的信用が高まり、企業の成長につながる

MVVの制定で得られる最も大きなメリットは、社会的信用が増大することです。自社が「何のために事業を行っているのか」「社会に何を成し遂げたいのか」「どのような社会課題を解決したいのか」を明示することで、単に売上主義ではない社会性のある企業として認知を獲得することができます。「しっかりとした軸を持ち経営を行う優良企業だ」「ビジョンの捉え方に視界の広さがある」と感じさせることで、ビジネスパートナーとなりうる取引先の経営者や金融機関、ベンチャーキャピタルから着目され、応援されやすくなるというメリット。さらには、「自社と目指す世界が近いからアライアンスを組みたい」といったオファー。同様に、様々なメディアからの取材依頼なども発生し、企業への認知度が高まることで、企業の成長が加速しやすくなります。

採用が成功しやすくなる、就職先として人気が出る

どんな事業を行う会社なのか。社会に役に立つ事業を行っているのか。こうしたことがMVVを通じて多くの人に伝わることで採用活動にも優れた影響が生まれます。受験した学生がMVVを通して、企業に対して深い理解が進み、「この会社=世の中によいことをしている会社」といった良好なイメージが獲得され第一志望としての認識が高まっていくでしょう。それだけではなく、その企業が目指す世界観に共鳴する学生や社会人が「自分の専門性が活かせそうだ」「この会社なら、自分を高めることができる」と応募し、優秀な人材や求めるスキルを持つ人材からの動機付けが高まり、内定辞退率が改善されたり、採用する方のご家族からの支援が受けられたりといったメリットが生まれます。

MVVの構築方法や浸透方法

ここではMVVの策定の仕方や手順についてご紹介していきます。MVVの策定方法については、様々なアプローチがあり企業の数だけ方法があると言っても過言ではありません。しかし、ここでは、一般的なやり方を軸に置き、その構築法や使用するフレームワークやツールの種類、そして、活動の仕方についてご紹介します。

 MVVの策定には、MVVそのものを開発する活動とともに、いかに社員を巻き込み社員にとっての「自分ごと」にしていくか、が重要なポイントになります。もちろん、経営者や経営ボードを中心に、MVVを確定していくのも間違ったプロセスではありません。しかし、そうした開発プロセスの難点は、社員にとっての腹落ちが弱いものになりやすい点です。どのような開発プロセスを踏むのが適切なのか、事業ステージや規模などによっても変わってきますので、以降ではいくつか開発のスタイルをご紹介していきたいと思います。

MVVの開発で大切なのは、その企業が「何をしたいか」「社会に何を成し遂げたいか」を明確にすることです。しかし、企業によっては、それが明確になっていなかったり、創業から歴史を重ねて当初の思いがぼやけてしまっていたり、時代に通用しなくなっているケースもよくあります。そうした際に行うのが、自社の強みや弱みを整理するワークショップです。この場合は、3C分析やSWOT分析などを用いて、一旦は論理的に整理して、自社を客観視してみることをお勧めします。とは言え、MVVはマーケティング戦略とは異なり、企業の「意志」が重要ですので、こうした分析の結果にこだわり過ぎず企業が本来、何をしたいのか、どの社会問題を解決したいのかと、自社の中に眠った「思い」を探り出すことが重要です。

 その際に行うのが、その企業の事業・サービスが関わる市場の将来性を見つめたり、社会全体の変化を探る「未来ワーク」などをしたりして、10年先、50年先の視点から「自社がどこへいくべきか」を探り出していくことや「次世代リーダーワーク」を通して、未来を担う社員の中から、「未来のありたい姿」を炙り出していくケースがあります。こうしたプロセスや自社の強み弱みなどの客観的な視点を入れながらも、最終的に自社の目指すビジョンやミッションの原型を整理し関係者での合意形成を行います。

 そして、この合意が取れた後は、ミッションやビジョンをより伝わりやすい言葉として言語化したり、その実現に必要な行動指針やスタンスを言語化するプロセスに移り、ミッション、ビジョン、バリューが形作られていきます。

  • ・経営陣だけでなくワークショップなどを通して社員を巻き込み、当事者意識を高めることが大切
  • ・自社の「独自性」を炙り出すために3C分析などを用いることも有効
  • ・客観的分析だけに頼らず、自社が「どうしたいか」「社会課題の何を解決したいか」など意志を明確にすることが重要
  • ・一方で、目指す方向の市場性や将来性をしっかり見極めることも重要

3C分析やSWOT分析などを使い企業の強み弱みを棚卸しする

自社の強みや独自性を客観的に把握するために、競合との関係性で自社を見つめ直す3C分析やSWOT分析などの手法があります。また、それらの分析の前に改めて自社の本質的な強みを丁寧なインタビューによって炙り出す。ものづくりや技術、サービス開発にかけるこだわりや譲れないポイントを把握する。といったプロセスも重要になるでしょう。使用するフレームワークは3Cなどが有効ですが、大切なことは形式的な3Cだけではなく、いかに細かなこと、一見、小さいと思う事柄もおろそかにせず、テーブルに上げていくかということ。そこから、自社の勝ち方、市場からの期待、独特の風土や空気感など、見えてくるものも多いのです。

自社の「意志」を改めて問い直す

MVVの作成においては、客観的な分析はあくまで基礎となる情報の一つに過ぎません。何しろミッション、ビジョンは未来を描くもの。現在の自社の状態にこだわり過ぎず、その強みや特徴があるからこそ、未来の社会に何ができるのか、何を成し遂げたいのかを議論していく必要があります。意志のあぶり出し方としては、経営者の思いを引き出すインタビューはもちろんですが、基幹社員(事業部長や役員クラス)が捉えている自社への期待や「ありたい姿」を引き出すインタビューやワークショップなどのほか、30歳前後の若手社員=次世代リーダーなどを対象にしたワークショップも有効です。また、こうしたワークショップは外部のプロフェッショナルを起用し、企画・設計から入ってもらうことで自社だけでは辿り着けない観点が見つかることも多くおすすめです。

ミッションの将来性を検証する

こうして見つけ出してきたミッションやビジョンの方向性や要素を元にぜひ、行って欲しいのが、「目指すベクトル」の将来性や市場価値についての検証です。社内では盛り上がり合意が取れているが、10年20年の目線で見たときに、市場そのものが存在しなくなっていたり、代替するテクノロジーによって縮小している可能性はないのか。また、結果的に同業ならどこでも語れるようなミッション・ビジョンになってしまい客観的に見たときに、「その会社である必要性が見えない」「あまり価値が感じられない」状態になっているのではないかなど、一度、冷静にミッション・ビジョンの内容を検証してみることが大切です。ミッション・ビジョンは、決して「掛け声」ではなく、企業が進むべき道を指し示す指針になる言葉です。言葉としての心地よさ、パワーだけでなく、経営戦略や数年後にどのような売上規模、収益を目指すのかなど数値的な戦略も側におき、その内容を検討することが必要です。

要素を元にして人々をモチベートできる言葉にする

ミッション・ビジョンの要素や方向性が固まり、経営戦略との整合性も検証できた段階で、行っていくのが、言語化です。言葉の専門家ではない企業がMVVの開発を行う場合、陥りがちなのが固くビジネス用語だらけの言葉になってしまい魅力的に見えないことや社内でしかわからないような独自の言葉遣いになってしまう点です。こうしたミッション・ビジョンの問題は、主に社外から見た際に、その企業の品質が下がってしまい、“安っぽく”感じられたり、業界の中で本来の立ち位置よりも“格下”のような存在に見えてしまう点です。これは、MVV上の課題というよりは、企業としての見え方=企業ブランドを傷つけてしまうという側面の課題です。こうした残念な結果にならないためには、MVV開発の経験の豊かなコピーライターやコンサルタントなどに依頼して、質感の高い言葉に落とし込むことが必要です。また、このように優れた言葉としてミッション・ビジョンを開発しておくことで、採用やインナーコミュニケーションに寄与するなどの効果も考えられます。

自社サイトを基本にしてMVVを発信する

MVVの開発が終了し、言語化までがオーソライズできたら、必ず自社サイトに理念のコーナーを作り、MVVを掲載していきましょう。文字や図形を用いて理念体系を整理するのはMUST。可能であれば、そのミッションやビジョンをイメージしやすくなるストーリーを動画やイメージビジュアルを用いたスライドショーで展開させたり、経営者の言葉として補完したりするのも良いでしょう。また、社内に向けては、MVVの浸透ポスターや、その価値をより具体的に落とし込んだポスターやビジョンブックなどを掲載、配布することで社員の中でミッション・ビジョンを達成することへの憧れや意識づけが行われていきます。

バリューの活用で、社員の行動の質を向上させる

MVVの取り組みは、ミッション、ビジョン、バリューを開発し、社内外に発表、その具体的イメージを発信するなどのP R活動だけにとどまりません。MVVの本来の役割は、なんといっても企業力の向上です。目指すミッション・ビジョンを実現する企業になるために最も具体的な一歩はなんといっても社員の行動の質の向上です。そのために活用するのが、行動指針の役割であるバリューの有効活用です。具体的には月に一度や四半期に1度程度にMVVイベントを開催し、そこで求めるバリューを実現している社員を表彰したり、その優れた行動をナレッジとして発表させることが重要です。「褒められる」ことを通して、当事者である表彰者の行動を強化するだけでなく、その優れた行動やナレッジが多くの社員に伝播することで、社員全体の行動の質上げにつながっていきます。これはあくまでも一例ですが、MVVは、このようにして実際の企業活動の中に落とし込むことで「生きたもの」になり、その理念が目指す姿により早く近づく状態になるのです。

MVVの活用事例

ビジョンを経営戦略にしっかり落とし込めているリクルート

創業時から「経営者をつくる」を理念においた江副浩正。

就職情報事業で創業し、現在も次々と新たな事業をリリースしていくリクルート。その強さの秘密は、何よりも創業時から続く理念経営=ビジョン経営にあります。日本有数の起業家と言われるようになったリクルート創業者の江副浩正が、リクルートの前身企業を創業したのは、1960年。当時は、20代の青年が会社を起こすなどとは考えられない時代でした。そのため、江副は「自分一人が企業の方向性を決めるのではなく、社員が全員、経営者の意識を持ち、高い当事者意識で関わる企業にしたい」と考え、“全員経営者主義”を打ち出しました。若く経験の少ない一青年だったからこその、全員が経営者でなければ会社は潰れてしまう、という危機意識から生まれた理念は、グローバル企業となった現在のリクルートにも、その姿を変えつつも受け継がれているのです。

キックオフ、Will-Can-Must、アワード、3つのエンジンで理念を回し続ける。

リクルートの理念は、リクルート事件、そして、何度かの経営者の交代のために、刷新され現在へと続いています。でも、そのコアにあるのは、「顧客や経営への当事者意識」と「経営者マインドで新しい価値を創り続けること」。その表現手法は時代に合わせて変わりながら、そこに宿る精神を経営へと具体的に落とし込んでいく仕組みが、企業からのメッセージであるキックオフと、個人のキャリア業績と結びつける「Will-Can-Mustマネジメント」と優秀社員を表彰する「アワード」の3つのエンジンです。リクルートでは期初に経営理念をその年の経営目標へと還元、“今年はどのような価値を市場に発揮するか”を定義づけるキックオフを大型の会場などで発表します(現在はオンラインイベントに変化)。そして、その目標を部門や部署ごとに分配して、業務に向き合います。また、理念や経営目標を個人と紐づけるために「Will-Can-Mustマネジメント」があり、マネージャーと面談をして、その期に自分はどのようにキャリア開発を行うかを考えさせ具現化のサポートを行います。そして、年間に4回程度(部内などでは月次)で優秀事例を発表するコンテストがあり、部門での優秀者などは公の場で自分の事例を発表するなど華やかな場が用意されています。リクルートではこのようにMVVを単なるMVVとして、「飾りもの」にせず実際の日々の企業活動の中に入れ込むことで理念の浸透と具現化、その理念をもとにした社員の育成を行っているのです。

リクルート、成功の要因は大きく3つ。
  1. 創業まもなく「社員全員経営主義」を掲げ「MVV経営」を行なってきた
  2. 時代や事業内容の変化に合わせて適宜、MVVを見直し社内外への浸透を図ってきた
  3. 「AWARD」「Will-Can-Must」など、理念と価値行動を紐づける仕組みが息づいている

MVVの使い方

MVVを会話の中でどのように使用すればいいのか、その使い方をいくつか見ていきましょう。

1. MVVが浸透しているから、社員が活躍している。

MVVの最もわかりやすい使い方です。企業イメージが高く、社員が元気だと言われる企業には、その根底に社員からのMVVへの共感の高さという共通点が見られることがあります。つまり、徹底した理念経営ができているということ。自社をよりよくしようと経営に提言する場合など、ベンチマーク企業が優れている理由としてもMVVの浸透をあげることができるでしょう。

2. これからの時代は、しっかりとMVVを策定して企業経営を行うことが重要だ。

これからの時代は、売上や利益目標などの数値目標や業績管理だけでなく、戦略と紐づくMVVを設定することで、企業の進むべき方向性を明確にし、社員やステークホルダーからの共鳴や支援を引き出していくことが必要です。社員との一体感が乏しい、生き生きと働けていないといった課題がある場合に、経営層に提案してみる際などに使いやすい用法です。

まとめ

これまでMVVについて、さまざまな観点からご紹介してきました。MVVは、企業の存在理由を改めて定義し、社員の気持ちを一つにし企業価値を上げていくためになくてはならい経営の重要ピースです。また、MVVを設定する際には、経営者のビジョンや社員のWillが大切である一方で、今の社会情勢、今後の社会の動きを見て戦略的に判断していく思考も必要です。また、業績的な目標を定めた経営戦略とMVVは呼応するべきものではなく、「つくりたい社会」「目指す自社の姿」をMVVで描き、そのK P Iとしての経営戦略=業績という関係であるべきです。また、作成したMVVは、社内イベントや評価制度、表彰システムなどと連動して社内に浸透させ、業績をうむアクションへとつなげていくことが大切です。

Written by
FUMI TOBE

CEO & CREATIVE DIRECTOR

代表取締役 クリエイティブディレクター/コピーライター 心理学科卒 91年 株式会社リクルート入社。ベンチャーから大手企業までの企業広告、ブランディングに関わる。2000年、クリエイティブディレクター/コピーライターとして独立。TCC会員。 【受賞歴】 東京コピーライターズクラブ新人賞/産業広告賞/福岡コピーライターズクラブ賞/東京コピーライターズクラブ ファイナリスト/BtoB広告賞金賞 など