ほとんどの方が、この二つの言葉を同じような意味合いで使っている。実は私もそうでした。
どちらも企業風土やDNA、らしさなどを指し示す言葉として使われてきました。
ところが、これが、厳密に言うと違うのですね。
企業文化の中に、含有される組織文化
さて、これら二つの言葉は、以下のように整理されています。これは、1989年のE.H.シャインによるもの。シャインは心理学者でもあり、経営学者でもあるアメリカの研究者です。より深くご興味のある方はぜひ、シャインによる「企業文化」をお読みください。
ちなみに、この本は研究者目線で書かれておりますので、少し歯応えアリな感じ。そこで、簡潔に解説しますと、企業文化と言う大きな塊の中に、組織文化は含まれていると言うことです。
この企業文化とは、以下の3つによって成り立っているとシャイン先生は言及しています。
その第一階層は、人工物。建物や社長室、ユニフォームなどのデザインやレイアウトに反映され、目で見てわかるものを言います。例えば、とても豪華だけど、なんだか人を寄せ付けない感じの社長室とか、絨毯フカフカの役員フロアとか。現代美術が威嚇してくるエントランスとか、ハンモックのあるオフィスとか、そういったことですね。
これらが発するメッセージは具体的ではありませんし、受け手によっても感じるものは違うはず。けれど、これも企業文化が反映されている、と考えることができます。むしろ、反映してしまうと言うべきでしょう。
社長室、オフィス空間。見えるところにも価値観は散りばめられている。
次に、最も外から見てわかりやすいものが、第二階層にある、標榜された価値観、目標、戦略と呼ばれるものです。これは企業理念やミッション・ビジョン。中期経営戦略などと文章として明らかになっており、誰でも言葉通りに受け取ることができます。
しかし、明文化はされているものの、それがその企業のカルチャーやDNA的なものと言えるかと言うとどうでしょう?例えば、同業界に属するA社とB社。ともに「技術で未来を切り開く」といった意味合いの理念を掲げているけど、やっていることは結構違うよなぁ、と言うケース。社是に「挑戦」と書いてあるけど、あの会社の社員は全員、保守的なんだけどなぁと言うケース。
組織文化は社長のメッセージなんかより、力を持つ。
そうなんです。シャイン先生言うところの、組織文化は、さらに深く第三層に埋め込まれているものなのです。
組織文化は社員たちの様々な行動や価値判断、規範、コミュニケーションスタイルに反映されていきます。例えば、慎重に検討を重ねて完全な案を出すことがよしとされ、そういった仕事や人物が褒め称えられる文化。反対に、スピーディにテストして、間違っていればすぐに修正するやり方が褒められる企業。同じような理念を掲げていても、社員の雰囲気も提案スピードも、何もかも違ってきます。
ですから、第二階層の標榜している価値が似通っていても、組織文化が違えば、生み出す製品・サービスもまた異なったものになるのですね。
また、この組織文化は、時に社長よりも、企業、そして組織を牛耳っていると言っても過言ではありません。例えば、M&A。親会社から社長が来て、組織文化を変えようと叫び、ビジョンやバリューをいじっても結果、何も変わらない。むしろ、モチベーションが下がってしまった。と言う現象は、この旧来から培ってきた組織文化を甘く見てしまった故。
この組織文化は、置かれている市場やビジネスモデルと結びつき培ってきたものですし、そこまで歴史を積んできたと言うことは、その行動特性や判断の仕方が成功体験と結びついているわけで、そう簡単には手放せない。ひとりの人が変わるのが大変なように、さらに人の集まりとなると、もっともっと変われない。
実は、組織文化を変化させるにもSTEPがあり、それもシャイン先生の本に書かれています。こちらについては、またの機会に。
本日は、組織文化の見えにくさ、そして、人々を動かす見えないエンジンとしての“組織文化“の、侮れなさについて、ご紹介させていただきました。