今回は、いつもとは趣向を変えまして、私の大先輩&コピーの師匠である、東さんにご登場いただきます。というか、これは、当社の制作社員たちと東さんを囲む会のほぼ実況中継。
ほとんどが、コピーを巡る有意義なお話でしたので、少しアレンジはしておりますが、空気感はなるべくそのままに、再録してみました。ボリュームがあるので、2部構成でお送りしようと思います。第1部は、恥ずかしながら、当社のメンバーの作品を見ていただいたコメントを中心に。ここにも、よいエッセンス、あると思っています。
さぁさぁ、東さんによるコピー講評会、トップバッターは市川です。
“葬儀は、人生の祝福だと、私たちは考える。“
について。
このコピーは市川の前職時代のもの。うまく言えているような、でも、キレイゴトすぎるようなコピーを東さんはなんとコメントするのでしょう?
東:葬儀を「祝福」だと捉え直したことはいいなと思う。だけど、この祝福という言葉ですべてを言いきれるのかな?と思うんだよね。「じゃあ、事故や災害で亡くなった場合も祝福なんだろうか?」「殺人ということもあるよな?」と。その遺族たちはどう思うだろう。そこにちょっと釈然としない感じはあるな。
“たいせつなものは、家においてある。”
について。
これは、自宅で介護を行うという、新しい形の介護サービスを行う企業の求人広告のコピー。温かい感じは、何となくするのですけれど・・。
東:いい感じのコピーなんだろうな、とは思う。だけど、このコピーは、サービスを誤解させてないか?と思うんだ。「大事なものは家においてある」という状態はつまり、今その人は家ではない場所、介護施設などに住んでいるからこそ、出てくる言葉のように思った。だから最初は、「介護施設にいても週に一回は家に帰れますよ」ということがウリの会社なのかな?と読んでしまった。
カラビナ:だとすると、「大切なものは、家にある」にすればいいのでしょうか?
東:うーん、でもそれだと、「おいてある」という言葉の優しさが失われてしまうかな。この雰囲気の良さを活かすのなら、たとえばだけど、「おいてあるから。」にしておいて、ボディの最初の方とかに「在宅老人ホーム」だとサービスがわかるようにしておくとかかなあ。
ほかに、キャッチは、もっと生っぽいのもいいかも。きれいごとにしてしまわないで。「やっぱ家で食べるごはんはうめーな」みたいな。それで心が動くようなのも書けそうな気もするし。お年寄り本人の視点にもっと立ったコピーもあるのかもね。
“きのう、きょう、アース。”
について。
市川、渾身のこの作品は、2016年度、宣伝会議賞、真木準賞に選ばれたもの。ただ、このコピーはかなり相手によって評価が分かれるものであり・・・。
東:これは、とてもいいコピーというか、プロの仕事になっているんじゃないかな。過去から明日へという時間の流れが入っているから、「開発の会社なんだ」ということもわかる。アースという社名の良さがうまく入っていて、これは企業スローガンとして高く買ってもらってもいいんじゃないか。
(だいぶ、絶賛でした!よかったね、市川!)
続きましては、我が社のエース
健太くんの作品です。
“揺れるだけなら、人は死なない。”
について。
これは、偶然にもカラビナで合流することになった市川くんと、同時期の宣伝会議でファイナリストになった作品。受賞には一歩、足りないものの善戦した作品でした。
東:これは、揺れるけれど壊れない家ということで、いいコピーだと思う。でも、ネガティブチェックをしちゃうんだけど。いやー、地震って、揺れるのも相当いやでしょ。あと、これは俺の個人的なことなんだけど、知り合いの妹さんたちがクルマの事故にあったとき、外傷はほぼなかったんだけど、脳が揺れたことが原因で亡くなっちゃたんだよね。揺れるだけでも死ぬかなあって。地震の揺れとは違うんだろうけど。ごめん。
“基準で、未来をつくれ。”
について。
これは、メーカーのモノづくりに関する品質基準を策定したり、グローバルに品質管理のあり方を発信したりする、業界団体向けのスローガン。
東:かっこいいコピーだね。基準って、規則とかルールみたいに、人を縛るネガティブな意味が少しあるでしょう。それを、堂々と「基準で、未来をつくる」と言っているのがかっこいい。だけど、ボディコピーが、もうちょっと、知性を感じるコピーになればよかったんだけど。この団体がやっている“こと”の説明で終わってしまっているのがもったいないかもしれない。
“引力の発見は、世界に新しい軸を生みだした。”
“境界に気づけば、これまでにない視点が手に入る。”
“まだない軸も、境界さえ、明らかにして、想像を超える次の時代へ。”
について。
これも、先ほどの品質管理団体のWebサイドでスライドさせるキャッチコピーたち。
この言葉がスライドした先に、“基準で、未来をつくれ。”が出てきます。
東:これは、わからないな。万有引力のコピーは、何を言いたいかわかる。でも、とくに二つ目の“境界に気づけば、これまでにない視点が手に入る。”というのは、どういう意味かわからない。ごめん、説明して。
鈴木:引力の方は、万有引力という新しい力の発見から、人類の科学は前進したというような意味だったんです。境界の方は、わかりにくかったんですね・・・。自分の中では、沸点とか融点とか、ある線を超えたら性質が変わることってある。今まで、わかっていなかった、そういう境界線が新たに発見されたら、世界はまた、変わるよね、というような思いでした。
東:ああ、なるほど。映像が地球の水平線みたいだったから、国境とかそういった境界の事だと思ったからますますわからなくなっていた。沸点とか融点といったことも境界軸ってことね。いい話だなあ。それなら、「融点を知ることで人は物質をコントロールできるようになった」とかの方がわかりやすいかもね。
・・・と、作品への講評はここまで。厳しいアドバイスももらえて、戸部としては大大満足!そして、ここからは、戸部の思いですが、作品を見ていただくことは、クリエイターにとって、とても重要な経験だということです。また、講評された人だけでなく、その会話を聞いていた人にも感じるものがあるはず。そう考え今回、思い切って、当日の会話をほぼ公開しました。
あとは、これを読んでくださった若手のみなさんが、少しでも東さんの視点やどのようにコピーをチェックしているかなどを読み取っていただけたらいいですね。では、次回は「飲みながら聞いた、東さんのコピーのつくりかた。」こっちはダイレクトにノウハウだらけだと思いますよ。
東さんのプロフィールはこちら。
東秀紀(ハッケヨイ制作所)
クリエイティブディレクター・コピーライター
主な仕事に、トヨタ「ECO-PROJECT」「プログレ」、「ビデオ安売り王」、キリン「カンパイ・ラガー!」「アミノサプリ」「903」、ノエビア「魔法の小ビン」、「ナイキジャパン」、リクナビNEXT「人が転職する」など。TCC最高賞など、受賞多数。近作に、岩手県釜石市の魅力を発信するWebCM「進め!ラグビー精神で」(https://youtu.be/CZ9ei81UYqA)がある。
ハッケヨイ制作所
http://www.hakke.co.jp/