7年近く化粧品ブランドを担当してきた中でも、もっとも頭を悩ませ、もっともワクワクしてしまうのは香水のコピー。そもそも、日本をはじめとするアジアは香水後進国。香りへの表現が豊かではないし、その上、目にも見えない香りを表現するって・・。
説明しても伝わりにくい“香り”を、
どう伝えるの?
西野:僕が最近悩むのは、オードトワレをはじめとする香水です。香りってどうやって伝えていくか、いつも頭を抱えてしまいます。
戸部:本当だよね。日本は香水文化ではないし、どちらかというと海外旅行などに行った時に免税店で、これかな?という感じで香水を選ぶ人も多いのではないかと思うよね。若い女の子が選ぶような、わかりやすい香りのコロンは売れていても、大人の女性が自分のために香水を選ぶって、ちょっと特別感があると思います。
西野:そもそも、香水って視覚的じゃないので、嗅ぐ人によっても捉え方が違ってくる気がしますよね。
香水のコピーは
女性像を描くところから。
戸部:このクライアントさんの場合は、まずこの香水をつけるべき女性像を描くところからスタートしますね。それを見つけにいくのは、単にマーケティング的なことだけでは難しい。例えば、40代の女性といってもたくさんの価値観があって、中でも香りとなると本当に微妙。また、香りってファッションみたいに、その人の生き方とか、その日になりたい女性像を象徴するところもあるよね。
西野:確かに、「今日の気分」で、女性はきめ細かに香水を選んでいる気がしますね。
戸部:例えば、オフィスで働く日中はマニッシュな香りをつけるけど、夜から食事に行くとなったら、違う香りをレイヤードするといった使い方をする人もいるよね。フレッシュな柑橘がつよくて、中性的な香りだな、となったら自律的で強さもあるような女性をイメージすることになる。それは女優さんだったら誰なんだろう?とか。
西野:女優さんのイメージが出てきても、このブランドの場合は直接的にモデルとして出ていただくわけではないですよね。
戸部:それで、その方が醸し出す生き方とか価値観みたいなものをコピーにしなくてはならないし、あまりそれが強く出過ぎてもイメージがつきすぎるのでバランスが必要。
西野:そういえば先日、金木犀をベースにした香水を担当しましたね。
戸部:この時の難しさは、このブランドがヨーロッパ発で欧州人にとっては金木犀=神秘的、“憧れの東洋の魅力”や“アジアンな色香”という連想になるのだけど、日本で同じ訴求にしてしまうと、むしろアジアンテイストに見えてしまい、ブランド本来のヨーロッパ発の強みを失うことになってしまう。では、どのように金木犀という馴染んだ花を新鮮で価値があるものに見せるかと苦心したよね。
西野:あの時も、何案も考えましたね。
戸部:金木犀の持つ魅惑的な感じや、まるで小さな星がたくさん咲いているかのようなキラキラ感を、ちょっと宇宙っぽいコピーにして、「新しいもの」になるよう提示したよね。
西野:結果、商品も売れたようで、頑張りがいがありましたね!・・・・
化粧品は、女性にとって実用品であり“夢を叶える”おまじないのような不思議な商材です。機能の良さを伝えながら、そこに必ず夢を乗せていく。そこにコピーライターとしての難しさもやりがいもこもっています。百貨店の店頭に、当たり前のように掲げられた私たちのコピー。通り過ぎる女性たちの心を、一瞬でもときめかせることができたら。
化粧品コピーの作り方最終編は、そんな私たちの思いで締めさせていただきます。