優れた「採用ブランディング」とミスリードな「採用ブランディング」 | カラビナ
すっかり「採用ブランディング」というキーワードが定着してきた今日この頃。
リクルートに新卒で入社以来、ずっと大手から中小、ベンチャー企業までと、あらゆる採用の“顔づくり“=採用ブランド構築に携わってきた身としてはとても感慨深い気がします。
もっと言うと、この採用ブランディングには、リクルートが固有で持つ、「コミュニケーション・エンジニアリング」という秘伝の考え方があり、その根幹を理解した上で、「採用ブランディング」を構築できているプレイヤーがどれほどいるのか。
言うは易し、中身は薄し、といった状況もあるのではないか、と思います。
そんな背景もあり、今日は、プロ目線で語る「よい採用ブランディング」と「採用ブランディング」の名を借りた単なる認知度アップ、顔のすげ変え型クリエィティブとの違いを、3つのポイントに分けて、お話ししていきたいと思います。
ポイントその1 人材要件まで科学的知見に基づき話し合えるかどうか。
採用ブランドづくりが、一般的なブランディングと異なるポイントは、買い手となる顧客を呼び寄せるのではなく、“一緒に働く人”を呼び寄せなければならない点です。
だから、本当に必要な人に向かってブランドが作れているかを検証しなければなりません。
しかし、企業にとって「本当に採用したい人材はどんな人か」を特定するのは簡単ではなく、時に混乱もします。
例えば、多くの企業が語る「経営人材」という言葉は、本当にトラップのようなワード。
同じ会社の中でも、ある人は「それは有名大学出身者のこと」と捉えていたり、「顧客に好かれる元気な子」と捉えていたりまちまち。
理想的にはSPIをはじめとする適性検査を活用して、自社の活躍人材の行動特性を分析し、それを元に経営陣と話し合いながら、求める人材像へとチューニングしていくのがよりよい進め方です。
こうしたツールを併用すると、その事業で活躍する人材の行動特性が明確になるだけでなく、お客様と私たち、お客様社内での、共通指標ができるので「戦略」を立案しやすくなるのです。
ただし、こうしたツールを使わない場合は、私たちが現在の活躍人材にヒアリングし、部門ごとの行動特性を分析。
さらにマネージャー層や事業部長、経営陣などと目線合わせをすることで、人材要件=コンピテンシーを作成することが可能です。
採用ブランドをつくる際に、プレイヤーを見分けるポイントは、人材要件に立ち返って会話ができるかどうか。
さらには、お客様の意見を鵜呑みにせず、深掘りできるか?本質をついた疑問出しができるかといったことが大切になってくるのです。
ポイントその2 いい意味で「企業ブランド」を裏切れているか?
人材像が設定できると、それを学生像へと置き換えていきます。
今はデジタルマーケティングの活用も視野に入るので、具体的データなどを元にペルソナ化するなどしてもいいでしょう。
(ただ、採用においてペルソナを事細かにつくることは、個人的に賛同しかねます。
採用はあくまで企業の考え方に共鳴・共感してもらうもの。
個人のニーズをすくい上げて“売り込んでいく”マーケティングとは根っこの思想が違うためです。
)
こうして、求める学生像を明確化したのちに、いよいよコンセプトを練っていきますが、ここでも重要な見極めポイントがあります。
それは、いい意味で「企業ブランド」「事業ブランド」を裏切ることができていること、です。
なぜならば、企業や事業の持つブランド=イメージが、対象学生にとって魅力的であれば、採用ブランドを作りこむ必要はあまりないからです。
ちなみに、そうしたケースではむしろ、アンマッチを防ぐために仕事の実態や社員の働き方などの情報量を増やして「興味喚起」ではなく、「理解」のレベルを上げるようにしています。
大手商社のサイトなどが、まさにそうした作りですよね。
だから、提案内容をお客様の担当者や経営者などが見たときに「まさにうちの会社の強みや魅力を掘り当てているよね!」と感じさせつつも、「新鮮な表現」になっているかは重要です。
すでにある企業ブランドとは異なる見え方をしながらも、その企業が持つ競争優位性や組織文化の強みが感じられることが大切です。
また、会話をする中で、しっかりと自社らしさを探してくれている、「いい意味でオリエン通り」ではない、誠意あるプレイヤーが採用ブランドを作っていく上では重要です。
ポイントその3 端的に自社を語る「言葉」を開発できること。
こうして採用ブランドを構築するコンセプトができてきたら、それを採用ホームページ、パンフレット、動画、イベントで使用するポスターや装飾等、様々なメディアに最適化していきます。
予算のある企業なら、これを単年度で行い、2〜3年のスパンで見直しをかけていきますが、中堅〜ベンチャーのお客様では初年度にまずホームページを立ち上げ、翌年はパンフレットをと1年ごとに充実させていくケースもお見かけしますし、これも良いやり方だと感じています。
採用ブランド作りの効果というと、どうしてもこうした「制作物」と採用人数の達成や質の向上に集約されがちですが、実はその中間地点にも採用ブランドの効果を感じるシーンがあるのです。
それが、イベントや説明会などの直接接点の場。
人事担当が学生たちに直接話しかけていく場で、開発した「採用スローガン」がいかに「使える言葉」になっているかも重要なのです。
最も、悪いスローガンは一見、面白いものの、企業価値を集約できていない言葉です。
これは間違った人材を呼び寄せてしまい、結果、ミスマッチになるという、人事の労力も学生の貴重な時間も奪う最悪のクリエィティブ。
表層的な表現の面白さに飛びつかない人事の慧眼こそが何よりの防御策となります。
次に悪いのは、「言えてるけど、つまらない」「自己満足だけど、よそと一緒」というスローガン。
よくあるのが「挑戦が、どうした」という類のものです。
正直、あまり挑戦的ではない企業に限って、こうした言葉を使いたがるので、本当に学生が気の毒になります。
でも、良いスローガンになると人事の説明コストを圧縮させる効果もあるのです。
例えば、以前、担当していたモバイルSEOの大手ベンチャーは、その看板事業が一人歩きしてしまい、「それしかできない会社」に見えていました。
本当は、人材に期待し、多彩な社会性の高い事業を生み出し続ける企業になりたいと考えていたのに。
そこで、その志をシャープに伝えるスローガンを開発したところ、学生からの理解が高まり、今まで本質理解のために、様々な人と会わせて理解を促していたプロセスが圧縮され、動機形成も行いやすくなったそうです。
こうした例は、当社には豊富にあります。
よい採用ブランディングを構築することができるプレイヤーとは、一つのコピーを武器にして、一瞬で企業や事業、ビジョンの本質を届きやすくすることができること。
そして、それを元に、ターゲットの心に残るキービジュアルを開発することができ、さらに一連の採用に関するコンテンツの流れをストーリー立てて提案することができる人々でなければいけません。
それはただ、デザインができること、コピーが書けることだけではない。
経営や人材への理解がないとできないこと。
よいプレイヤーを選べば、採用のその先の、インナーブランディングや企業ビジョンや理念共有といった、経営力アップのための取り組みの相談相手にもなるので、はじめにしっかりとよいパートナーを選ぶことは、本当に大切なことではないかなぁ、と思っています。