「心理的安全性」って、いわゆる仲のいい職場のことですか?いいえ、率直に向き合える職場のことです。
BUSINESS / MARKETING
「心理的安全性」って、いわゆる仲のいい職場のことですか?いいえ、率直に向き合える職場のことです。
2020.12.18
POSTED BY FUMI TOBE

代表戸部が、絶賛、学び中の、中央大学戦略研究科教授の露木先生。先生の前職も、戸部の前職もともに、喧々諤々、言い合いながらも新しいモノを生み出していた、と言う共通体験があるふたり。教え子である特権を生かして、何かと誤解が広がりがちな「心理的安全性」のナゾについて、組織論の観点から深く伺いました。

露木 恵美子教授プロフィール
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)研究科長・教授。
研究テーマは「場と共創」。企業をはじめとした組織における創造的な場のあり方を多面的に研究している。共著で執筆した『職場の現象学:共に働くことの意味を問い直す』が2020年4月に刊行。

そもそも、「心理的安全性」と言う翻訳が誤解のもと?

戸部:「心理的安全性」というと、“人にやさしい職場”とか“同僚や部下に厳しいことを言ってはダメ”なのでは?と捉えられているようですが?本当のところはどうなのですか?

露木:そもそも「心理的安全性」という翻訳が日本語としてこなれてないんです。日々の暮らしで、そんなに人に不信感を感じることはないし、“安心感”とか、“信頼”という言葉の方が合うのでは?日本では、“安全”が当たり前の社会。それに“心理的”が付いているから、概念が正しく広まっていないように感じますね。

戸部:なるほど。

露木:「心理的安全性」を提唱したエドモンドソン教授は、心理的安全性について「メンバーが自ずと仲良くなるような居心地のよい状況を意味しているわけではない」そして「プレッシャーや問題がないことを示唆するでもない」と説明していて。だから、結束力がなくてはならないというわけでも、メンバーの意見が一致しなければダメ、ということでもないんですよね。

戸部:心理的安全性って、どうやれば生まれるんですか?

露木:そこですよね。心理的安全性は、困難なことをチームでやり遂げるなかで生まれてくる部分もあって。あえて作ろうとするものではないと思うんです。心理的安全性は職場の満足度に関わってきますが、それだけでなく、比較的ものが言いやすい職場には、それぞれが異なる視点でモノを見られるという価値があると思うんです。社長でも、一般社員でも、ひとつの意見はひとつの意見として取り上げられる。一人だけの意見がもてはやされて、意見が言えない環境は創造的ではないんです。

戸部:声の大きい人の意見に偏るのは創造的ではないですよね。

露木:「心理的安全性をつくれる職場は生産性が高い」とよく言われますが、生産性を意識する前に、創造的な職場をつくるためには、一人ひとりの考えを言える職場であることが大事。素直に話すことが奨励され、言葉にできない考えや想いも、みんなが「何だろう?」と一緒に言葉にしてあげる。その積み重ねが大切です。心理的安全性を生み出す上で、“意義ある対立”が後押しするとされるのは、たくさんの意見が出し切れていて、その違いをちゃんと吟味した上で、はじめて良いとか悪いとか話し合えること。それが、企業の掲げる目的目標とどう関係あるのか?と考えられる職場です。
大切なのは、“素直に話す事を促すこと”なんですよね。素直に話すことで、周りに示唆を求めたり、ミスに対する意見を求められるようになって学習機会が増えていく。しかし、率直に口にすることにリスクを感じて、素直に話せない人が増えると、どうしても創造性を欠く職場になってしまう。

大切なのは「ひとり一人が言いたいことを言えること」
けれど、それが実に難しい。

戸部:周りに遠慮をして言えないって人も多いと思うんです。

露木:チームの結束力がよすぎても、意見が言えなくなる。特に日本の場合、「こんなこと言ったら傷つくんじゃないか?」とか「せっかく良い意見をもらったのに否定するようなことをいっちゃいけないんじゃないか」とか、「出しゃばっていいのか?」などの気遣いが多いですね。それは人に対する配慮であって、創造性には全く関係ない。職場の創造性を高めるためには、上司にでも「おかしいんじゃないか」と言えることは大切だと思うんですよね。

戸部:そうですよね。

露木:そもそも、創造性は辺境から来るんですよね。たとえば、ブレストの時に「ちょっと変わった視点から、モノを言える人」と言うのは、ある意味、辺境にいる人。その会社に染まりすぎない異界の視点を持っていること。そうした意見をどう大切にできるかです。また、職場をよくするために「場をつくりましょう」と言う話をよく聞きますが、場はつくるものではなく、“ある”ものなんですよね。意図的に作れるものではなくて、雰囲気や空気の中で“なっていくもの”。意図通りにならないのが場なんです。「職場改善のためにこういうことをしましょう」とは言えても、そうなるとは限らないのです。

戸部:そうした取り組みが、却って場を悪くすることもありますしね。

露木:「心理的安全性」が広まったきっかけは、Googleが成功しているチームを調べた結果、「心理的安全な状況である」と言う特徴を見出したためですが、なぜ生産性や創造性に「心理的安全性」が関係あるのか。それは、多様な意見を取り込むための大事な条件だからなんですよ。メンバーが好き勝手に意見を言ってもいいけど、わがままではいけない。その違いは、難しいんですけどね。

戸部:その違いを全員が実感できているのが、良い職場ですよね。過去の職場経験では、メンバーひとり一人の目線が、お客様やプロジェクトなどの“社会”に向いていて、端から見たら言い合っているように見えても、意義のある対立が起きて、提案がよくなっていた。ただ、自分にそうした体験がないと遠慮して意見がいえなかったり、意見のつもりが自分のエゴだったりと、難しいところありますね。

露木:そうそう。その人の都合の良いことを、あたかも世の中のこととして言うのは、率直に物を言うことと違う。人って自分の都合の良いように解釈してしまうので、どこにゴールがあるのかはとても大事。

戸部:ゴールに向かって、「もっと、こんなやり方があるんじゃない?」とか「それ面白いね」と言い合える環境が理想ですよね。問題なのはゴールではなく目の前の人を慮って、考えが閉じてしまうこと。

大切なのは、ゴールを見失わずに
ひとり一人ができる‟最善“と向き合うこと。

露木:そもそも、心理的安全性は何かを成し遂げるための条件であって、目的ではないんですよ。目的になると逆転してしまう。だから、成し遂げるためにあるべきだと考えた方が良い。日本の企業に務めている、ある中国人の学生が「日本人は配慮じゃなくて遠慮しているようにみえる」と話していて。「職場には配慮が必要」という理論があるけど、配慮はその人の状況を見極めた上で行うことですが、「“その人を傷つけないために言わない”というのは違う」とその方は話していました。上下関係や横の関係しかみてないから、そんな関係性になってしまう。お客様や目的のことを見ていれば、起きないはずなのです。

戸部:確かに、心理的安全性を“居心地のよさ”と捉えている人もいますね。

露木:実は、居心地のよさは生産性には関係ないんですよね。一般的に居心地がよければ、パフォーマンスが上がると思われているけど、仕事や職場に満足しているからって生産性が上がるわけでもない。職場ではなく、“仲良しクラブ”になってしまうんです。「最後は骨を拾う」という言葉があるように、本当に困った時に助けてくれるのが、本当の安心感であり信頼感。普段は優しくても、ミスをしたときに何もしてくれないとか。それは信頼とは全く違いますよね。仕事の上での重要な指摘を相手に遠慮して言わないことは、大きな問題です。「ハラスメントになるんじゃないか?」と心配するあまり、必要なことも言わないことが今はあるんじゃないでしょうか?

戸部:たとえばどんなことですか?

露木:たとえば、部下がミスをした時に注意しないとか。とにかく「怒れない」と言う声をよく聞きますね。ハラスメントで訴えられるとか、過剰反応になっている面はあると思う。時には、自分の思い通りにいかないと人のせいにする人もいるから。

戸部:大きな企業になると、一部でおかしなことが起きていても、全体に影響はないか、と考えてしまうこともあるかもしれませんね。

露木:ある金融機関で部長が、毎日、怒鳴っていると聞いて。私は、怒鳴るよりも、その人がミスしないように考えた方がいいのに、と思うんだけど…。そういった、“叱る文化の企業”で対話型の職場を創ろうとしている人に話を聞くと「最近、緩んでいないか」と声が上がってくるようで。心理的安全性が“ゆるさ”に感じてしまうようです。みんなが怖くて凍り付いているような職場から、いきなり「なんでもいっていいよ」となるから差が激しいんです。そもそも、“仕事だから何でも言っていい”わけで、“ゆるい”と感じないようにするには、相手が深く考えているのかを聞くスキルや態度が必要になってくるわけです。それに、ダメなところは本気で「ダメ」と言うことのも必要。心理的安全性をつくること自体には意味がなくて、本気で向き合うということが大事なんですよね。

戸部:心理的安全性って、副産物ですよね。

露木:そう!何かをやるために、副産物として出てきたのが心理的安全性だと思う。

戸部:むしろ心理的安全性を作りたかったら、みんなで同じゴールをちゃんとみて、マインドセットいくことの方が重要。

露木:そうです。企業なのだから、最終的には結果。お客様に喜んでもらうことがゴール。自分がいかにお客様に喜んでもらうか行動すること。職業人としての自立ができているかです。相手に、「こうだと思う」と意見を言えるのは、ある程度自立していないと言えないこと。自分の言ったことに責任を持てるか。本当にやりたかったら、自分が旗振ってやってください、ってことなんですよね。

戸部:他の人に変わってもらうんじゃなくて、自分が率先して動いて、周りを巻き込んでいくってことですね。

露木:一人ひとりが、自立しているから、多様な意見が出てくるってことだよね。

「心理的安全性が高いほど、仕事の効率化が上がり、組織内の人間関係が深まる」というメリットがさまざまな場所で謳われるものの、企業である以上、お客様や目標と向き合うことが大切。「お客様や目標を達成するために何ができるか?」その最善な方法を見つけるために、年次や立場を問わず、多様な意見を聞き、受け入れること。その結果が、心理的安全性のある職場をつくるのだと、学びました。

組織論にさらにご興味のある方へ。

山口一郎 露木恵美子著「職場の現象学」

職場における上司と部下、同僚同士の人間関係の奥にある「見えないもの」を現象学で解き明かす著作です。

関係性がうまくいっている具体的な職場の事例も描かれ、組織や風土作りに課題を感じている方。職場での関係性に疑問を感じている方にも読んでいただきたい一冊です。

職場の現象学ブログへ

Posted by
FUMI TOBE / CEO / CREATIVE DIRECTOR
代表取締役 クリエイティブディレクター/コピーライター 心理学科卒 91年 株式会社リクルート入社。ベンチャーから大手企業までの企業広告、ブランディングに関わる。2000年、クリエイティブディレクター/コピーライターとして独立。TCC会員。 【受賞歴】 東京コピーライターズクラブ新人賞/産業広告賞/福岡コピーライターズクラブ賞/東京コピーライターズクラブ ファイナリスト/BtoB広告賞金賞 など

RELATED POST

お問い合わせ

CONTACT

お仕事のご相談、弊社サービスに関するお問い合わせなど
下記リンク先お問い合わせ専用フォームよりお問い合わせください。

お問い合わせ
資料請求・お問い合わせはこちら
お問い合わせ